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広がる黒い染み-1
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夜の街。城下町は以前のような賑わいがもどってきていた。
少し前までは、この城下町も森の暗さに圧倒され夜の闇を支配する闇の魔が入り込み、人々はそれに恐怖して、夜に出歩くという事を殆どしなくなっていたからだ。
その城下町の、ある酒場にランフィスの近侍であるレンはここ最近、毎晩入り浸っていた。いつも決まって座る席に腰かけてぼんやりと毎晩すごしている。そこは、酒場の女将も気さくでレンは気に入って以前から通っている店でもあった。
「そういえば、前に一緒に来ていた美丈夫な旦那は来ないのかい?」
女将がなんの気なしにレンに話し掛ける。
「美丈夫の?ああ、あいつはもう当分はこないだろうな」
レンは女将の言っているのはきっとランフィスの事だろうと分かった。ランフィスが皇宮から出られないというのは本当なのだが、城下町へお忍びでレンと共に来た事もあったからだ。
遠くではなく皇宮近くの城下町ならというお目こぼしもあったと思う。ただもちろん、レンはしっかり護衛をしていたしそう何度も行くこともなかった。
女将はそんな僅か数回の来店のランフィスを覚えているとは。
(変装もしていたからランフィスとは分からないとは思うけれども、お客をよく覚えているのは店主として当たり前なのだろうが、この記憶力はすごい)
レンはそう思った。
「そうかい?また一緒に来てくれると嬉しいねえ」
「まあ、どうかな?」
「ぜひにねー。今、お祝い期間中だから安いって言っておやりよ」
「お祝いねえ」
この夜の街が闇の魔が入り込まなくなったのも、昼には、温かい日差しがいつも照っている事も、ランフィスがパートナーを得て、力を世に放出したからだ。
ランフィスと優斗が生み出す、気の光、光の束によって気候も安定してきている。
街の皆はランフィスがパートナーを得たことに一気にお祝ムードになっている。
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