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イハク-8
「……そういうわけじゃなくて……あの、友達が好きでやっていて……」
「そうなんだ。あんまりこのへんの連中はこういったのに疎くてさ。こういう臭いとか嫌がるんだよねえ。でも、ユウトがそんなんじゃなくてよかった」
イハクは嬉しそうに言った。
(まあ、慣れているっていうのはそうだし……)
中は、すごい広いくて、倉庫か何かをワンルーム仕様にしたような感じだった。
優斗が色々見回すと、目に入ったのが描きかけの絵がかかっているイーゼル。それらが、何個もあって、さらに、床には何枚もの絵も立てかけてあった。風景画、人物画・・色々とあって全体的に柔らかい感じの暖色系のものが多かった。簡単な長い作業机の上には絵具と絵具の付いた布がちらばっていて、オイルようなものが入っているビン、蓋がない入れ物の中には何かよくわからないぐしゃぐしゃの紙か布の束、それと、筆とペインティングナイフと何も書いていないキャンバスとそんなようなものが、整理もされずに転がっていた。
右手の壁側には簡単なキッチンとその手前にテーブル。左手にはカーテンに仕切られたような場所が2,3か所あって、全体的に雑然としていた。
一番奥には衝立があってそこが寝室のような感じだった。床は絨毯などは敷いてはいなく素朴な感じの粗い板の床であった。
「イハクって画家・・なの?」
イハクはにっこり笑って言った。
「そうだよ。皇子のパートナーが今度お披露目になるだろう?それで俺、絵を描くんだ。宮廷画家になるんだ……。まあ、その候補。何人かの一人なんだけど、本格的に選ばれれば……」
「・・・え?」
「だから、俺のとこに来たら本当にお金に困らないよ?」
(宮廷画家??それって………)
優斗は驚いて黙ってしまう。
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