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その日-5
バスティンとレイアの生み出す気の力がすべて絶え、ランフィスと優斗へと変わった。
皇宮の祈りの櫓のある方向から七色の光が天へ向かって上がり一斉に世をすべて覆うほどに降り注いだ。それがその証しであり知らせであることになる。それを確認した伝令が、知らせの鐘を鳴らし、それを受けて各地の伝令が鐘を鳴らす。それが、バスティンとレイアの二人からランフィスと優斗へと世代が変わったという印であった。
その知らせがなければ、公の即位の式は行うことはできず、その知らせの後、約一か月後に公の即位の式が執り行われる。それが今まで陽の国の世界での習わしであった。
だけど、その交代が何時になるのかは、皇と継ぐ者とそれぞれのパートナーとでしか分からない事であった。
こうしてランフィスはバスティンから今までの歴代の全ての皇の記憶と知識を受け継いだ。その記憶と知識は、すべてが表には現れるわけではなく、心の奥底においてある状態であった。ただ自分の分かる情報の表面は分かっていた。
云わば圧縮ファイルが何件かあるようなもの。ファイル名は分かるけれども解凍はされてはいない。記憶と知識のすべてをそのまま受け入れてしまうのには人としての精神が持たなくなってしまう。
その都度必要な知識を意識してふるいにかけて取り出すことは出来る。何故なら"何を知っているか"が分かっているからだ。
そこでランフィスは向こう側の世界とこちら側の世界との境界の鍵を知ることとなる。これは、皇の記憶でのみ伝えられるもので、誰も知られてはいない。
それは、向こう側とこちら側の世界の行き来の術 であった。
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