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衝動-4
「あの時は、ユウトが見つかった事で安心してしまったから、それだけで終わってそのままになってしまっていたけど、イハクは娼楼に来ていた客だ。そのイハクがただ単に何のメリットもなくユウトを助けるだろうか?助ける代わりにユウトは何か要求されなかったの?」
「そんなことは…」
"…ない"
と優斗は言おうと思ったが、知らずに後ずさっていたようで傍の小さいスツールに足がぶつかった。思わずふらついて、そのままへんな形で床にストンと座るように転んでしまった。
「ユウト?大丈夫か」
驚いたランフィスが起き上がらせようと手を差し出す。ユウトはその手を掴む、ランフィスはそのまま引き起こそうとしてくれる…のかと思いきや……だけど、そのまま、ユウトの手を掴んだままはなさない。
「…ランフィス?」
不思議に思ってランフィスに声をかけた。だけど、ランフィスは動かずただただ優斗を見つめていた。どうしたんだろう?と優斗は不思議そうにランフィスを見上げる。
すると、ランフィスは優斗の手を掴んだまま、その傍らに片膝を着いて座る。そして、黙って瞳を覗きこむ。見上げていた優斗の目線が、ランフィスと同じになった。
「ランフィス?」
その行動がよくわからなくて、優斗はもう一度言う。すると、
「やっと目を合わせてくれたね?」
そんな事を言った。
「……あ」
(そうだ、さっきから、ランフィスの目を見ていなかった。なんとなく目を合わせづらかったから…)
そうして、ランフィスは優斗にさらに近づく。
「ちゃんと私の目を見て言って?本当に何も無く、イハクに助けられただけ?なの?それだけ?」
「…それは、、そ…う」
そんな見つめられて言い切る自身なんて優斗にはなかった。
「…ユウトは嘘が下手だね?」
ランフィスにはそれがすぐに分かった。
「……あ、あのね、ランフィスが"心配する様な事"はなかったんだよ」
「……では、心配するような事はなかったけど、それ以外の事は遭ったということ?」
「…それは……そうじゃなくて」
優斗は言葉に詰まる。
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