292 / 379

向こう側へ-2

だからといって、向こう側へ帰って行ったきり、そのままでもう自分には無関係だと思うなんて事は、優斗にはとうてい出来ない。 (最初ここに来た時は一日でも早く帰りたかった………でも今は?) ランフィスには"優斗の意思に任せる"と言われてしまっていた。 (色々自分で考えるのは……無理だよ) 誰かに相談したりせめて話を聞いてもらって自分のこの心の内をどうにかしたい。 "向こう側とこちら側へ行き来出来る"これは、皇以外の者には知られてはいけない事。だから、この話を誰かに聞いてもらうこともできない。 だったら……? (……前皇だったら?) 前皇のバスティンは(まつりごと)から全て退き、今は上皇としている。 (いやいや……まさかそんな相談とか無理だろうし。でも、誰かに言うことで自分の心のうちを整理したいというのもあるんだけど) 優斗はそんな事を考えながらふと、 「前皇って今は何処にいるんだろう?」 とうっかり声を出して言ってしまった。それを傍に控えていたヤナギが聞き返した。 「前の皇ってえと?バスティン……あ、バスティン・・様?ですか?」 優斗はしまったと思ったけれども仕方なく返事をした。 「そうだよ?」 「俺、結構、猫になってあちこち遊んでるから、それでみたことある……ります。」 ヤナギの敬語がまたまた変になっていた。優斗は頷きながらヤナギの言い方に思わずくすくす笑ってしまう。色々悩んでいたので今のやりとりにものすごく和む感じがした。 .

ともだちにシェアしよう!