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向こう側へ2-3

…… … 優斗は夕方になるとヤナギを伴ってランフィスの部屋へ向かった。部屋にランフィスがいるのを確認するとそのままヤナギは下がって行った。本当にヤナギは優斗の護衛に最適で、きちんと務めていた。そのヤナギに今日の事を言えないのは心苦しいと優斗は思った。 「今、月は見えないかもしれない」 優斗はそのまま外を見るために窓へ向かった。ランフィスと二人で窓から空を見上げると雨は少し小雨になっていたようだった。 「このまま月が見えなければ向こう側への道の扉は開かれないってこと?」 だけどランフィスは首を振り、 「その時が来ると雨は止むんだ」 そう言った。 「わかるんだ?」 「そう…。今日の日が近づくに連れて、皇の記憶がさらにどんどん蘇って来たんだ」 その時間になるまではあと少しだった。優斗は静かに部屋のソファーに座る。 「雨で月が見えなければ今日は無かったんだよね」 「……うん。だけど、優斗が向こう側へ行くと決めた時から道の扉が開くようになる……」 「それって?どういう?」 (俺が向こう側へいかないと"思わなければ"扉は開かない?ってこと?) …… …… 月が真上になる時が近づくにつれて徐々に雨は止んできた。ただ、雲は未だに晴れなかった。だけど構わず、ランフィスと優斗は祈りの宮へ向かった。 祈りの宮……その地下の底に月を映す水面がある。 「祈りの"宮"?祈りの"櫓"じゃなく?」 「ああ、祈りの櫓ではない。建物はもっと大きい。祈りの宮は今は殆ど使われていない堂宇(どうう)だ」 着くころには、雲が割れてその間にぽっかりと浮く月が見えた。まるで二人が月の下へ来るのが分かっているかのように。ただただ雲の合間に空と月とが(しず)かにあった。 「やはり月がよく見えてきたね」 ランフィスはそっと呟くように言った。 ……… ………

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