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現(うつつ)-6
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………
───風が変わった。
誰某が言った。
その夜は、いつにもまして良い月が見えた。日の光はこの国では嫌われるが、月の光は違う。しかしこの良い月の見える空も、陽の国側のみ雲が覆い尽くされている様子だった。
(あれでは陽の国では雨が降っていて月は見えないだろう)
その月を見ていたのはギオであった。
闇の国の力の及ばない陽の国は、日の光が収まった夜においては闇の国の力を忍び込ませる絶好な機会であるが、最近では結界が強まっていてそれも容易くはない。
気の力の放出が安定してきた昨今では珍しく、今日は陽の国の上にのみ、極地的に雲が覆いつくし、雨が降っている様であった。
「今宵、風が吹きます。それが新しい風です」
首席魔道士であるジマが言う。
「今日の日がそうなのか?」
と、暫く経つと本当に、はげしい突風と小さい竜巻のような旋風が吹いてきた。
「おそらく、向こう側かこちら側かで"落ち人"が生じたかもしれません」
「落ち人?」
(誰が来るのかそれともこちらから向こう側へ行ったのか?)
ギオはその風の吹く方向を見る。
…………
…………
優斗が向こう側へ突風とともに旅立ってすぐに、ランフィスは激しい頭痛を起こした。
(──これは………)
優斗の呼ぶ声が薄くなる。声が遠くてこちらから呼んでも答えない。
(これは優斗の意識が消えた………? )
だけど、ランフィスにはまだ優斗との繋がりは感じていた。それは、細い細い絹糸のように。だから、
(……優斗へ伝って行ける)
"優斗の印は消えてはいない・・・"
(大丈夫だ。優斗は記憶を失ってはいない)
優斗が消えた空は、いきなりな突風が嘘のように静まり返って、雲が晴れ、ただただ大きな月が見えていた。
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