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現(うつつ)-8

…… …… 一方、病室では優斗の行方が分からなくなったと大騒ぎになっていた。 暫くして一人の看護師が屋上の庭園に優斗がいるのを見つけた。 だけど、庭園は夜は入れないように施錠されているはずで、屋上へ向かう為のエレベーターへ行くには必ずナースステーションの前を通らなければならないはずなのに、何故誰にも咎められずに行けたのかと、看護師は不思議がっていた。 次の日には、優斗の父親も母親とともに病室へとやって来た。 (やっと二人そろって会えたんだ……) 優斗は二人と話したかったが、果たして言葉が出るのだろうかとも思った。 「……あ……」 だけど思い切ってそっと声を出す。 「……優斗?」 母親は優しく聞き返した。優斗はゆっくりと話し始めてみた。 「父さん、母さん・・・」 はっきりとした言葉を発した。 「優斗!!言葉・・!」 「話せるの?」 それを聞いた優斗の両親は二人とも驚いた。 「……そう…みたい」 きちんと、検査をすると医者には言われたのだがその前に言葉が戻って来たようだった。 (だけど何で言葉が出なかったんだろう?こちら側へ来た事への"衝撃"で起こったのかな?) とりあえず優斗はこれで二人と話せるようになったのが嬉しかった。 … …… 『──印のある者は行き来は出来るが稀にその記憶をなくす・・』 優斗は、ランフィスに"優斗がこちら側へと行く間際"、いきなり蘇った「伝聞の記憶」を知らない。 …… … .

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