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それぞれの-1
………
…
そのランフィスの姿は大陸中に映像として流れていた。
どんな街でも、人里離れた村でも。
………
もちろん、本当に近くにいる皇宮の式典に参加しない人々も無論のことその映像を観ている。
それは、皇宮の離宮にいるバスティンもそうであった。ランフィスの即位式を終え皇の座をゆずったバスティンは以降その離宮にレイアとともにいる。
その離宮には専用の石板がありそこに映像が映し出されていた。
「ああ、彼は本当に大陸を纏める皇帝になるんだね。私には出来ないことだ」
「それは・・そういう巡り合わせなだけで時期が良かっただけです。バスティン様が今、皇でしたならばきっとそうなっていたでしょう」
「そうかもしれないね。でも、もういいんだ、もうすぐ私は消えてしまうからね」
「そんなことおっしゃらないで下さい」
「そうだね、ランフィスの良き日にそういう事を言うのは止めよう……」
話すのも少し辛そうな様子だった。
(最近では起き上がる事もままならなくなった。分かっている。気の塊、気の力を生み出すことができなくなってしまった皇は、徐々に弱り命が尽きるから)
バスティンの場合は元々身体が弱かった所為もあってそのスピードが歴代の皇よりも早い。
「レイア、君のその活力のある声、姿、そしてその気立て・・。君を見ているとこちらも元気になっていくようで嬉しかった。その綺麗な髪も瞳も。。みんな…」
………好きだ
………
……
同じく、皇宮の中央に位置する部屋。
「全く、なんで見えないのにわざわざ映像見るためだけにここで描かないといけないんだ?」
まあ、双眼鏡を使えば見えない事はないけれども?
そうぼやいているのは、イハクだった。はれて宮廷画家に選ばれたイハクはやっとものすごく大きな絵・・・優斗の肖像画を描き終えて、皇宮の真ん中の謁見の間に飾ったばかりだというのに。
今度はランフィスのこの皇帝の姿を描く事になった。
実物を見ないと。とイハクが文句を言ったら、それはだめだと言われて、映像じゃなかなかリアルには描けないとさらに言うと、ここ皇宮の中に特別に誂えたアトリエ。そこに専用の映像装置を付けるからそれで描くようにと言われたのだった。
それに、本来なら許されない事なのだが、これも「特別」に双眼鏡でランフィスを見る事が許された。
(これもユウトが頼んでくれたんだけど。もうユウトさまさまだよ)
実際はスケッチをするだけの事なのだけれども、それを元に絵にするから。リアルな様子を見たいのには変わらない。
「だけど、この映像をとっておけるって、器械絵なら何度も見る事が出来るっていうのは知っていたけれども、動く映像までとっておけるのはすごいな」
一般民にはこんなの見ることもないだろう。
(だけど、ランフィス様のこの雄姿は。この前の即位式以上だ。この俺に描き切れるかどうか)
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