371 / 379
それぞれの-2
…
……
そして、皇都からだいぶ離れた山村の合間にある村。
その村の広場でも、ランフィスが皇帝となる宣言をしたその式典の映像が流れる。皇城からの知らせの映像は、大体村の中央の広場にある映像を映す石板を、皆で観る事が多い。
そこには、ある青年が母親と住んでいた。
彼は以前は皇都の中央で働いていたらしいが、身体を壊してその静養の為に母親とともにやってきたのだという。村は母親の故郷でもあった。
青年は母親に笑顔で言った。
「皇様を早く見に行こう。とても素敵な様子だよ」
青年は、映像の皇の姿を観て何故か・・とても悲しくて泣きそうで胸が苦しくなるようなそんな感覚に陥っていた。
(まただ……)
以前、皇の即位式の映像を見ていた時も同じ症状になった。
「どうしてだか、映像を見てるととても苦しんだ」
母親にふと言ってみた。
「なんでだろうね?きっと皇様が神々しいからじゃないか?」
母親がなんでもないふうに答えた。
だけど、母親にはその理由が少し分かっていた。しかし、それは、たとえ、青年が自分の事を疑問に思うことがあっても決して以前の青年の話をしてはいけないと、皇城の魔導士に言われていたため、決してその理由を話すことはなかった。
青年が元の自分の事を思い出してしまうと、さらに強い術を掛けなければいけない。それは命を縮めることになる。
「ここだと少し遠くて見えないね。もっと広場の真ん中の前の方でみる?」
広場には祭りの時みたいに人が沢山連なっている。青年が母とともに広場の前へ歩こうとしていると、少し離れた所で、青年に向かって、17、8歳ぐらいの可愛らしい少女が手を振っていた。
近所に住む少女だと気が付き、青年も嬉しそうに手を振り返して、少女の側へ駆け寄った。
「2人で前の方で見といでよ、私はここでいいから」
母親はそう言って仲睦まじく話している2人を微笑ましく見守ったのだった。
…………
……
…
.
ともだちにシェアしよう!