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第四話 発覚④

「律くん、今日は合コン来れる?」  大学の食堂で、有澤と二人昼食をとっている時のことだった。  同じ学部の女子数人がやって来て、いつものように合コンに誘ってくれた。  俺も有澤もよく参加しているからか、それなりに顔が広くて、だからこうして誘ってくれることも多い。 「ごめん、しばらくそういうの行かないことにしてるんだ。バイトたくさん入れちゃって」 「そうなの?有澤くんは?」 「俺も行かない」  俺は女子たちにバレないように有澤を睨みつけた。有澤は知らん顔で、俺の方を見向きもしない。 「そっか。じゃあまた誘うね」 「うん、ごめんな」  パタパタと去っていく女子たち。しばらくしてから、俺は机の下で有澤の足を蹴った。 「なんで断ってんの?行けよ」 「行かない。律が行かないなら行かない」  そう言って、優し気な目で俺を見る。居た堪れない。そんな目で見ないで欲しい。 「やめろよ。俺のことはお前に関係ない」 「大ありだ」 「ないっつーの。いいから俺のことなんて気にせず、記念すべき100人目の男漁りに行けよ」 「俺は律がいいって言ってるだろ」  あの病院の日から二週間たった。  昨日、検査結果を聞きに病院に行った。なんでか有澤もついて来た。  そして、俺はALSだと、診断を受けた。  この筋萎縮性側索硬化症という病気は、脳みそのなんだかよくわからん細胞が消失していくことで、運動機能が徐々に失われてしまう難病だ。  何十万人に何人か、という確率で発症するとかしないとか。  進行スピードは人によって様々で、症状も人それぞれだそうだ。段々身体が言うことを聞かなくなっていき、最後には自発呼吸が出来なくなって死ぬ。そんな病気。  一番厄介なことは、この病気は治らないということだ。特効薬も効果的な治療法も無い。徐々に現れて進行する症状を予測して、対応していくしか無いのだ。  手足が動かなくなって、ご飯が食べられなくなって、話せなくなって、それで、呼吸もできなくなって……  そんな状態になっても、意識も五感もハッキリしているのだという。  転んで頭を切った日、自宅に帰ってから色々調べた。  調べなければ良かったと、今では後悔している。生きた屍だ。好きな時に好きなことをできないなんて、そんな状態がどうして生きていると言えるんだ? 「あのさ、なっちゃったもんは仕方ないんだよ。俺はいずれ何もできない死体みたいになっちゃうの。有澤はさ、なんで俺に良くしてくれるのか知らんけど、でも放って置いてくれてもいいんだよ?お前の人生に、俺みたいな人間は合わないよ」  思ってもいないことを言っている自分に、もはやどうしていいのかもわかららなかった。  本当は放っておいて欲しいなんて思っていない。ただツラいのだ。  なんで俺なんだよ?死んでいいやつなんて、他にもっといるだろ?そりゃもちろん俺はいい人間じゃない。優秀な兄と比べて落ちこぼれだし、際立った能力があるわけでもない。  だからって、なんで俺なんだよ?  そんな思いが頭を支配している。  身代わりを差し出せば治してやると神様が言うなら、俺は躊躇いなく有澤でも兄でも差し出しているだろう。  そんなことを考えているのに、有澤は俺に優しい。  それがとてつもなくツラいのだ。 「俺はさ、律のそばにいるよ。お前のこと支えたい。俺、お前のこと、」 「やめろ!!」  気が付いたら、ダン!と両手でテーブルを叩いていた。 「支える?冗談だろ?俺が何もできなくなるのを眺めて楽しむつもりかよ!?最低だな…自分はなんでもできる姿を、ずっと俺に見せつけようってか?」 「っ、そんなつもりじゃ、」 「じゃなんだよ!?お前がそばでニコニコしてんのを、俺はどんな気分で見ればいいんだ?目も頭も正常なんだぜ!?そんなん見せつけられる俺の気持ちも考えろよ!!」  俺の人生は後悔ばっかりだ。  もう少し努力しておけば。  あと少し詰めておけば。  諦めて、自分に見切りをつけていなければ。  こうして後悔することなんてなかったんじゃないのか。  大切な友人を傷付けることもなかったんじゃないのか。  もう遅い。  今までの行いをやり直すなんてできない。  口に出してしまった言葉は、取り消すことなんて出来ないんだからさ。 「律!!!!」  気が付いたら逃げていた。有澤の前から。大学から。今までの惰性的で平和な日常から。  良かった。まだ、逃げる事ができて。足がちゃんと動いて。  ちゃんと動くうちに、本当にどこか遠くへ逃げてしまいたかった。

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