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第二十話 願い①

 八月中旬。  明日、以前から行きたいと言っていた地元の花火大会がある。 「なあ律ぅ、去年は俺と行ったろ?なんで今年はダメなんだよぅ」  大学が午前で終わった有澤が遊びにきていた。  有澤が俺の腹の上に軽くのし掛かって、別に可愛くもない甘えた声を出す。 「律に触るな。嫌がってるだろう」 「え!?嫌がってんの?ホントに?」 「ほら、顔を見ればわかる。重いからどけ!と言っているのがわからないのか」  実際、たしかに重いけれども。そこまで酷いことは思ってない。 「チェッ、お前らはアレだろ、どうせ相思相愛以心伝心とでも言うんだろ」 「そうだ。オレには律の気持ちがわかるんだ」 「はいはい。そこまで惚気ておいて、付き合ってないなんて信じられんぞ俺は!!」  拗ねた声で有澤が言う。  付き合ってないのは本当だし、俺ももうそこまで望んでない。ただそばにいて欲しいだけで。 「つか、マジで明日行くの?その、行って大丈夫なのか?」  今度は真剣な声。有澤は、俺のことすごく心配してくれている。嬉しいなぁ。 「大丈夫だ。医者の許可ももらっている。それに律はずっと楽しみにしていたんだ」 「そっか。じゃあ、楽しんでな」  明日の花火大会が終わったら、その次の日から酸素吸入が開始になる。また一段と外へ出ることが困難になる。  今でも結構息苦しかった。体勢を工夫したりして、なんとか息をしている。夜間飲みすでに酸素が必要になっているから、今更もうひとつ医療器具が増えることに抵抗はなかった。  有澤とは大学に入ってからの友人だ。  去年は有澤と二人で花火大会に行って、射的で欲しくもないクマのぬいぐるみを取る勝負をした。なんでそんなことになったのかはもう覚えてないけど、そのぬいぐるみは、今俺の枕元にちょこんとすわっている。  そうやって、有澤との思い出を、つらつらと思い出すのが俺の楽しみだった。それしかすることがないと、案外細かいところまで思い出すことができる。  くだらない大学での日常。たまにご飯食べに行って、あそこのほうが美味かったとか、こっちのほうが量があって安いとか言いあった。  有澤の恋愛事情は、俺にはよくからなかったけれど、俺の人生の中で一番の友人だった。  ゲイだとかバイだとか含めて、話ができたのもよかった。  俺は有澤の、記念すべき100人目にはなれなかったけど、どうか、いずれ好きな人と幸せになって欲しいなと思うわけだ。 「律、今の、どういうことだ?」  俺の記憶を除いていたのか、冬夜が怖い顔をした。 「記念すべき100人目ってなんだ?」 「あっ!」  有澤が慌てて声を上げる。 「お前、律にそんな不名誉な称号を与えようとしていたのか!!」 「いやだって、律可愛いから、正直真剣に狙ってたんだよ……」 「なんだと!?」  ギャアギャア、ガミガミと、今日も俺の周りはとても騒がしい。  でも、とても心地が良いのだ。

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