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第二十四話 願い⑤

 俺は、なんだかよくわからない超自然的な力で、ふわふわと中を飛んだ。  いつも歩いていた道を、フワリ、フワリと飛んで、ふと思いつく。  冬夜のところへ行く前に、有澤のところへ寄っていこう。  有澤はすごく良くしてくれた。大学からの友達だから、付き合い自体は短かった。  でも、病気になっても、大学を辞めても、変わらず接してくれた大切な友達だ。  一人暮らしだからといって、頻繁に会いにきてくれて、そのうち、俺のかわりに家族と夕飯を食べるなんてことになっていた。俺の座っていた椅子に座って、俺の代わりに、家族みたいにしてくれた。  有澤はモテるだけあって話し上手で、俺と違って酒も強い。父さんは有澤とすごく気が合うみたいで、夕食時はとても賑やかだった。  大学での俺の話をペラペラと家族に話すもんだから、聞いているこっちはめちゃくちゃ恥ずかしかったけど、有澤のおかげで、暗くならない楽しい空間が保てていたと思う。  有澤の住んでいるアパートは、ワンルームの和室で、華のある容姿に似合わない貧乏極まれりな様相だ。初めて来た時俺は、顔に似合わないと言ってゲラゲラ笑った。  そのアパートに久しぶりに来てみると、やっぱりボロボロでちょっと笑える。  俺はまるで手品みたいに壁を抜けて、有澤の部屋に入った。  ガサツな有澤のことだから、室内はやっぱり散らかっている。俺が何度掃除しろと言っても、また今度と話題をそらしていたことを思い出す。  畳の上に万年しきっぱの布団に、すうすうと寝息を立てる有澤がいる。  俺に何かあったら連絡するようにと、家族には伝えてあったけど、あの様子じゃなかなか連絡はできないだろう。  だから俺がこうして来てやったわけだ。いい友達だろ?  有澤、有澤。  俺、もう行かなきゃなんだ。  たくさんの思い出をありがとう。  お前が友達でよかった。変わらず隣にいてくれて嬉しかった。  それと、お前はモテるんだから、バカみたいなことしてないでさっさと幸せになれる相手を見つけるべきだと俺は思う。  何が記念すべき100人目だよ。ふざけんなっつーの。  と、一方的に伝えて、それで終わらせようとしていたのだけど。  有澤は、なぜか突然飛び起きた。 「っ、あ、あれ?」  布団の上にあぐらをかいてキョロキョロと辺りを見回す。  バレた?とドキドキした。俺がまさか、今ここで有澤のことを見ているのが、バレている? 「律……」  有澤が片手をあげて手のひらを見た。指先まで小刻みに震えている。そこに、ポトリと一雫の涙が落ちる。 「あー、そっか。虫の知らせって、ホントにあるんだなぁ……」  なんてことを言う。 「ってことは、俺は律と親しかったって、思ってもいいんだよな?」  今更何言ってんだ?こうして俺が直々に会いに来てやってんだから、当然だろ。 「ついに言えなかったなぁ。俺、結構本気だったのに」  知ってるっての。  有澤が俺を、本気で好きだったことなんて、気付いてるっての。  でもごめんな。お前は俺の友人なんだよ。だから、気付いてないフリしてはぐらかしてた。別に悪いとは思ってねーよ?  だって有澤には、きっともっといい人が見つかるから。お前はいいヤツだからな。俺が保証する。  じゃあな、有澤。遊びはほどほどにするように!! 「じゃあ、またな、律」  まるで俺の言葉に応えるように、有澤は小さく笑って言った。  俺も少し笑って、また壁をするりと抜けて部屋を出た。

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