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第8話

「美夜!!」  再度飯田が俺を呼んだ。必死に追いかけてきたようだけど、俺は立ち止まらずに走り続けた。  本館を抜け、渡り廊下を渡ってその先の、理学部の化学研究棟まで一気に走った。  一階の一番奥のトイレまで駆け込んだところで、飯田が追いついてきた。 「待って、美夜!ごめんな、オレの友達がヒドいこと言って。ちゃんと誤解ないように言っとくから!」  一番奥の個室にするりと飛び込んで、ドアを閉めようとしたのだが、思いの外素早く飯田の足がそれを阻止する。  俺は気にせずドアを閉めようとした。でも体格差があるから力で敵うはずもなくて、個室に押し入ってきた飯田を止めることはできなかった。 「美夜、本当にごめん。オレは気にしてない。美夜にも何か事情があるんだろ?お金に困ってるのか?オレに何かできることない?」  心底心配しているような優しい声音は、道端の野良猫を懐柔しよとしているような雰囲気がある。美味しいエサを手に、おいでおいでと言われているような、そんな気分になってしまう。  もちろん、腹をすかせた野良猫が、エサに負けてしまうのは時間の問題だ。だって、生命を維持するための欲求には、どんな生き物だって逆らえるはずもないのだから。 「ごめん、飯田!ちょっと目瞑って耐えて!」 「え!?」  一応申し訳なくは思う。だって、飯田は俺を庇ってくれたから。俺のこと何も知らないくせに、信じようと、助けてくれようとしたから。  でも残念なことに、俺は飯田の思っているような人間じゃない。いや、そもそも普通の人間ではないのだ。  戸惑う飯田の前に跪いた俺は、ドアの鍵を閉めてから、飯田のデニムに手をかけた。厳ついデザインのベルトを外して、せっせと前をくつろげる。 「ちょ、美夜?美夜!?」  慌てて俺の頭を押しのけようとする飯田の手を払って、俺は、飯田のちんこに食らいついた。 「んふ、ぁ…はぁ、おいひい…飯田の、大きくておいひいょ」 「み、美夜っ」  ぺろぺろと先端を丁寧に舐め、空いた手で根元と玉を軽く揉んだり撫でたりしていると、飯田がひくりと息を飲んだ。  少し質量を持ち出したそれを、今度は口に含んで軽く吸う。全部入り切らないくらい大きいのに、まだまだ成長しそうで期待に胸が熱くなる。 「ふ、ん…ぁ、おっきくなったぁ」  硬さが増すにつれて、先端から溢れてくる先走りの量が増える。甘い。脳みそが蕩けてしまいそうなほど、甘くて美味しい。もっともっとと、それしか考えられなくなる。  淫魔の厄介なところの一つだ。俺にはまったくそんな気はないのに、口が勝手に言葉を垂れ流す。 「飯田の、とても甘くておいひい……全部ちょうだいっ」 「ぁ、くっ」  じゅるりと音を立てて、喉の奥へと受け入れる。舌を裏筋に這わせると、飯田が苦しそうに息を飲んだ。  必死でデニムに縋り付いていると、快楽に負けたのか、飯田が腰を押し付けるように動き出した。俺の頭を抑えつけて、ぐりっと上顎を擦る。 「んぶ、ふ、ゴフ、っ、んんっ」  あれ、思いの外早くイったな。そんなに良かったのか?しかも、飯田の出したの、めちゃくちゃ濃くて甘かった。いつもより満足できた気がする。  ゴクリと喉を鳴らして飲み込んで、満足したなぁと顔を上げた。飯田は赤く蒸気した顔に、とろんととろけた目をしている。 「ごめん、飯田。突然こんなことされて、引いたと思う。だからもう友達やめよう。残りの金はあげるからさ」  なんとなく気まずくなって(俺のせいだけど)、早口で捲し立てた。なんなら罵られるのも覚悟していた。  おわかりだろうけど、俺が突然走って逃げたのは、別に悪口を言われて嫌だったからじゃない。  どうしても我慢できなくなったからだ。この欲求不満状態には波があって、とりあえずこの人気の少ないトイレでやり過ごそうと思ったのだ。  飯田がここまで追いかけてくるとは思っていなかったけど、俺としては結果的に満たされて満足してる。後悔はない。どうせ期限付きの友達関係だし。 「ほら、俺が言うのもアレだけど、さっさとそれしまって講義室行こうぜ。もうすぐ時間だ、し……?」  ダンマリされると気不味いなぁ、なんて思いながら、出来るだけいつも通りの感じで言った。だけど俺の気遣いなんてまるで聞いていないかのように、飯田が急に動いた。 「ちょ、え?飯田!?」  ガタンと大きな音を立てて、押し倒されるように便器に座らされる俺。 「んんっ!?」  即座に塞がれる唇。ヌルリと侵入してきた飯田の舌は、興奮を表しているかのように熱かった。 「や、やめっ、ヒッ!?」 「美夜って噂通りの変態なんだ?」  ぎゅうとズボンの上からちんこを握られて、途端に恐怖が湧いてくる。  言い忘れていたが、いくらフェラに夢中になってしまうからと言って、別にそれで自分が興奮したことは一度もなかった。この行為は食事であって、別に気持ちよくなりたいわけでもない。  だから俺のそこは、別になんの反応もしめしていない。 「あんなに美味そうにオレのちんこしゃぶっといて、お前はなんも感じてねぇの?それってなんか、傷付くんだけど」 「それはっ、だって、俺は別に気持ちよくないし!」 「でも気持ちよくなりたくてオレにこんなことしたんじゃないの?だったら同意アリってことだよな?」  同意?なんの?  尋ねる前に、飯田が俺の服を捲った。上半身が外気に晒されて、恥ずかしいような変な気分になる。一体何が起こってるんだと混乱した頭で、抵抗しようと腕を動かすも、飯田の手が俺の両手を押さえつけていてどうしようもなかった。 「なに!?ちょっと、離せよ!!」 「ムリ。お前が先に誘ったんだからな」 「誘ってな、ひゃうぅ!?」  飯田の空いている方の手が、俺の乳首を摘んだ。ギュッと力を込められて、思わず情けない声が出る。 「やめ、やめて、触んな、あああっ」  片方を指で、もう片方を舌で刺激され、羞恥に固く目を瞑った。擽ったい。それに、なんだかムズムズするような微妙な感覚が下腹部へと集まってくる。  飯田は俺が叫ぼうが暴れようが一切無視して、ひたすら乳首を攻め立てた。指の腹で軽く撫でたり、爪を立てて引っ掻いたり、舌で先端を舐め、時々強く噛んだ。 「は、ぁ…やぁ…痛いっ、んふ…」  いつの間にか腕は自由を取り戻していた。でも、俺の頭はそんなことより、飯田の動きを追ってしまっている。  モゾモゾと両足を擦り合わせると、飯田はニヤリと、色っぽく目を細めた。

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