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第35話
「あっ、やぁ!?も、ムリッ!しぬ!しんじゃう!!」
飯田の凶器が、ぬちゅ、ぐちゅ、とエゲツない音を立てて俺の尻に出入りする。
ぐぐぐっと奥を押し広げられる度に、折り曲げられた膝が胸につきそうで、俺はくぐもった呻き声を上げた。
「美夜は奥攻められんの好きだろ?ここの、もっと奥に入ってんのがいいんだろ?」
俺の足を肩にかけ、全体重を乗せるように突き入れて、飯田はニヤニヤと狂気的な笑みを浮かべた。ついでに、片手を俺の腹に乗せ、深く奥を抉ると同時に腹を押す。
「い"、あああっ!!は、はぁ…くるし、よぅ」
飯田の大きなちんこが腹の中をくまなく擦り、カリのところが前立腺を刺激していくのがはっきりわかる。
「ぃ、ヒッ!?いいだ、いいだ!もう、ホント、ムリだからぁ!!」
「ご主人様に口答えするなよ」
「ぁが、は、ぅぐ…」
何度も奥を抉られ、前立腺を攻められ、それだけでもキツいのに、今日の飯田は首を絞めることに快楽を見出したようだった。
飯田の大きくてゴツゴツした手のひらに対して、俺の首はちょうど塩梅よく収まるようだ。
「美夜、めちゃくちゃキツい。首絞められて感じてんの?」
「ちが、ぁ、しぬ、も、しぬから、やめ…ッ」
両手で飯田の腕を掴んで、首から外そうと爪を立てる。だけど、俺が力で飯田に敵うわけもない。
頭が、バカになりそうだ。
「おい、なに勝手にイってんだよ。誰が出していいって言った?」
「……ぁ、ごめ、なさい…」
「オレの腕じゃなくて自分のちんこ握っとけ」
そんなふうに扱われて本当は嫌だけど、でも、俺は素直にそれに従う。ギュッと力を込めて自分のものを握りしめる。すでに何度かイかされて、ドロドロのちんこを握る。
「お利口さんだな、美夜は。さすがオレの奴隷だよ」
奴隷。もう、それでいいです。
淫魔の俺ははしたなくヨダレを垂らしながら、焦点の合わなくなった目を彷徨わせて、飯田に言われるがままに犯されて喜んでいるのだ。
首を絞められるのが気持ちいいなんて、そんなこと知らなかった。
吐きそうなくらい中を蹂躙されて、手足がぶるぶると震える感覚が気持ちいいなんて、知らなかったのに。
飯田の所為で、今までの俺はなんだったんだ?と疑問に思うくらい、男とのセックスが好きになってしまった。
「いいだぁ、あ、ああっ、くる!すごいの、きちゃうっ!!」
「気持ちいい?」
「ん、きもちい、よぉ!あ、あ、だめだめ!も、おくばっか、やめ!ンあ"あああっ」
ビクビクと背筋に電流が流れるような感覚があった。いつも射精するときより何倍も強烈な快感が全身に広がる。
「ちゃんと自分の握ったままイけたんだ?美夜はホント、お利口だな」
「ンヒッ、ぁ、や…触んないでっ!」
握りしめていたせいで、吐き出すことができなかった俺のものを、俺の手の上から飯田が握りしめた。自分ではしたくないのに、無理矢理動かされているようで妙な気分になってくる。
「やめ、今敏感だから離して!」
抵抗しようと身を振る。でも、イったあとの体は大して動いてはくれなかった。
飯田は俺を抑え付け、強引にちんこに刺激を与え続ける。先っちょを手のひらでぐりぐりと撫で回されると、なんだか出てはいけないものが出そうになるわけで。
「ひぁああ、や、ヤァッ、〜〜〜〜ッ!!」
下腹部の筋肉がビクビクと収縮し、連動するように足先まで跳ねる。それから、透明な体液を撒き散らしてぐったりと力尽きた。
「スゲ、美夜。潮吹いてドロドロじゃん。どうすんの講義」
「はぁ、はぁ…」
「美夜ぁ?聞いてる?返事は?ちゃんと返事しないと、精液あげないぜ」
おーい、と飯田が俺の頬をパシパシと叩く。
だけど俺はもう、返事をする元気もなくて、薄ぼんやりした視界でただ天井を眺めていた。
「まあいいけど。でも、もうちょっと付き合えよ。オレ出してないから」
え?と飯田の顔を見やった。
その瞬間、また飯田が乱暴に腰を打ち付け始め、俺はたまらず逃げを打った。が、狭い便器の蓋の上で、逃げる場所なんてない。
「あ"っ、ぅ、ンん、やめ、も、ムリっ」
小さく呟いて、そこで意識が途切れた。
――――――
「ごめん、ホント、ごめん」
現在、例の如く飯田の家。
目が覚めたらここにいて、俺は今、飯田に土下座されている。
「お前のセックスは趣味趣向が独特過ぎるんだよ!!」
「ごめん美夜。首、痕つかなくて良かった」
「ホントだよ!!」
俺はソファにふんぞり返り、地べたに座り込んだ飯田を睨みつける。シュンとしおらしくしている姿は、大きな犬を叱りつけているみたいで、だんだん居た堪れない気持ちになってきた。
「もういい。飯田が変態野郎なのはわかってるし」
なんだかんだ言って気持ちよかったし。結局そこに尽きるのだ。
それに気持ち良すぎて気絶した俺を、ちゃんと介抱してくれる。タクシーで家に連れ帰り、体を綺麗にして着替えさせてくれるのだ。
よくここまで世話ができるなぁと感心する反面、ここまで気配りができるのに、どうしてあのケモノの強姦みたいなセックスは踏みとどまる事ができないのだろう?と、疑問にも思う。
「それより!」
気を取り直し、心を鬼にし、ともすれば飯田カッコいいなあ好きだなあとお花畑になりそうな頭を振って
言う。
「今後は許可なく俺に触れないように!」
飯田はキョトンとした表情を浮かべた。まるで俺が何を言ったのか理解できないというように。
「そんで、週末のお泊まりも無し!精液が欲しいときは言うから、それ以外で必要以上にかかわるな!」
「それ、どういうことだよ?なんで?急になんでそんなこと言うんだよ?」
飯田が慌てたように俺のそばへ這いずってきた。飯田がベッドに乗り上げた所為で、ギシリとスプリングが音を立てて俺の体が飯田の方へ傾ぐ。
「ちょ、寄ってくんな!」
「なんで!?オレ、こんなに美夜のこと好きなのに!!」
「だって、」
俺に嘘ついて美波とあってるくせに。俺とは遊びのくせに。
その現場を目撃してしまったのだ、飯田の“好き”を、真剣に受け取れるわけがない。
「飯田はモテるよな。顔もかっこいいし、気配りもできるし、金持ちだし、セックス以外なら完璧だ。だから、俺より良い人はたくさんいるだろ」
「はあ?」
「だから、さ。お互いに健全な相手を探す方がいいと思う。そりゃ俺は精液ないとダメだからさ、男の人とそういう関係は必要だけど、でも恋愛対象はあくまで女の子だから。飯田だってそうだろ?」
そこまで言い切って、はたと飯田の視線に気付いた。
とても、傷付いたという顔をしていた。また怒ってめちゃくちゃにされるかも、とちょっと警戒していたけれど、そんな緊張感も一気にどこかへ消えてしまうほど、飯田の瞳は悲しげに揺れていた。
俺は何か、間違ったことを言っただろうか?
そもそも飯田は、先輩たち曰く女の子とも遊んでいたし、零士たちは急に男に告白なんてして有り得ないという雰囲気だった。
お互いに恋愛の対象は異性で間違いない。ハズ。
俺とのことは、顔が好みだったからという、バグだったのだ。機械が起こすバグみたいなもの。だから正常に機能した飯田は、美波を選んだのだ。
「美夜…オレのどこがダメだった?これからは治すから、だから、そんなこと言うなよ」
「ダメなところなんて無い」
とは言い切れないけれど、お互いを傷つけ合う結果になりそうなことは言わない方がいい。
飯田は俺に、変わるキッカケをくれた。この恋はそれで良かったのだ。初恋なんて実らないものなのだから、これはこれでいい。
最初に好きになったのが飯田でよかった。そのおかげで、俺は髪を切ることができた。前より少しは、周りを見られるようになるかもしれない。
一緒に映画を観に行った時、飯田が言ってくれた言葉のおかげで、淫魔であることも多少はポジティブに考えることができた。
美波を選んだことはとても悲しかったしムカついたりもしたけれど、それは結局俺に飯田を引き止めておける魅力が無かったということだ。
「飯田はカッコいいよ。ちょっと本気になっちゃうくらい、良い男だなぁと思うよ」
だから美波とうまくいくと良いな。
悔しいから、ちゃんとは言ってやらないけれど。
俺は悲しそうに俯いた飯田を残して、部屋を出た。
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