40 / 63
第40話
――――――
気が付くと、俺はベッドの上にいた。
それはいつかの記憶とそっくりで、俺はまた飯田の部屋にいるのかと思った。
飯田はよく、俺の寝顔をガン見していた。目が覚めて一番に視界に飛び込んでくるのがイケメンの飯田で、よくよく考えれば寝顔を凝視されるのって不気味だけれど、それが飯田ならまあいいやと、いつからかそんなふうに考えていた。
思えばその頃から好きだったのだろう。
本当はイヤだなぁと思うことでも、飯田ならいいやと、受け入れることができた。それって好きだからなんだろうな。
心は認めていたのに、気付くのがおくれてしまった。そのせいで、きっと飯田は美波の方へ行ってしまったんだ。
今からでも遅くないだろうか。
美波より俺の方を選んで欲しいなんて、今更言ってもいいのだろうか。
俺からフったようなものなのに?
わからない。わからなくて、悲しい。
「いい、だ……」
掠れた声で、だけど精一杯名前を呼ぶ。いつもなら、なんだよ?と優しい声が返ってくる。
違う。
ここは飯田の部屋じゃない。
俺は、確かカラオケのパーティールームで、騒がしい男女の中にいて。
それで、隣に座っていたイヤな先輩に何かヤバい薬の入ったジュースを飲まされて……
「っ、やあ!?」
そこまで思い出し、同時に体を這うヌルヌルした感触に悲鳴を上げた。
「ああ、やっと目醒めた?」
パチリと至近距離で金髪の先輩と目が合う。先輩は、ベッドに仰向けになっている俺の上に覆い被さっていた。先程のヌルリとした感触は、その先輩が俺の体を舐めていたからだと理解した。
「な、え?なに、して、」
「んなの考えなくてもわかるだろ。素っ裸でベッドの上に組み敷かれてんだから、やることなんてひとつだ」
あまりに驚きすぎて反応に困った。言われてみれば、そういやいつのまにか裸だ。下着すら履いてない。
「ちょ、待ってください!俺、帰りたい!!」
「はぁ?ふざけんなよ。せっかくここまで運んだのに帰らせるわけねえだろ」
「そんなの知らねぇよ!離せっ」
上から押さえ付けている先輩の肩を押し返す。俺だって男だ。いざとなれば押しのけて逃げるくらいできるはずだ。
そう思ったのに、おかしい。
体がいうことをきかない。
弱々しく腕を持ち上げるので精一杯だった。
「フン、ほらな、大人しくしてろよ。結構強めの睡眠薬混ぜといたんだぜ」
先輩がニタリと厭らしい笑みを落とす。その顔に、背筋が凍った。怖い。拘束されているわけではないのに動けないことが、とても怖い。
「イヤだって!離して!触んなクソ!」
「あんま抵抗すると優しくしてやれねぇぞ」
「いらない!触んなよ!」
心も体もパニック寸前で、がむしゃらに動いて先輩を遠ざけようとした。
バシッと、頬に鈍い痛みが走る。
「い、た……」
「次暴れたら今度は殴るから」
痛いのはイヤだった。でも、ここで抵抗しておかないともう逃げられないとも思った。俺は先輩を睨み付け、再度手足を突っぱねて逃げようともがく。
「チッ!」
先輩が舌打ちして、次の瞬間、真上から顔に拳が降ってきた。ボコッと鈍い音が耳の奥にツーンと響く。一発、二発と頬を殴られ、両腕を上げて顔を庇うしか無くなった。
「ぃ、たい…やめて、お願い、なぐらないで……」
涙と共に溢れるのは、情けなくか弱い自分の声だ。
俺は唇を噛み締めて、抵抗するのをやめた。口の中に血の味が広がった。
「最初から大人しくしてりゃ痛い目にあわなかったのによ」
ボソボソとつぶやくように言って、先輩が両手を伸ばしてくる。俺は泣きながらされるがままに、両腕を組み敷かれ、せめてもの抵抗と顔を背けてキツく目を瞑った。
先輩の息遣いがすぐ顔の横で感じられる。耳にヌルリと生暖かい先輩の舌が這い回り、耳たぶをガリッと音が立つほど噛まれる。そしてさらに耳の穴まで入り込んだ舌が、グチュグチュと音を鳴らす。
「ヒ、ゃ、あっ」
気持ち悪い。嫌悪感で胸が爆発しそうだけれど、抵抗してまた殴られるかもと思うと動けなかった。
「美夜ちゃんはさ、大学で変態って言われたんだってな。オレもあそこの卒業生だからさ、今でも後輩に色々聞くんだわ。二年に街で男漁ってるやつがいるって聞いて、それが芸能人の弟でさ、めちゃくちゃ可愛い顔してるって知ったら、そりゃヤってみたいと思うよなぁ」
そう独り言のように話しながら、先輩の舌が首筋を舐め、さらに降って、肩に噛みついた。
「ぅ、ふっ…イタイ、やめ、て」
噛まれる痛みで、さらに涙が溢れて来る。だけど先輩は気にも止めず、俺の体を舐めては噛んでを繰り返す。
「なぁ、いつもそうやって、イヤイヤばっかしてんの?どうせ慣れてんだろ?だったら楽しめよ」
「イヤだ…も、離して」
「チッ!まあいいわ。無理矢理すんのも嫌いじゃねぇし」
先輩が嗜虐的な笑みを浮かべ、ぐったりとして動けない俺の足を左右に割開く。
「やだ、やめて!お願い!!」
「うるせぇよ」
先輩の手がローションのボトルを手にする。透明な粘度の高い液体を手のひらに出して、そのまま俺の尻に塗りつける。
飯田と何度も体を繋げたから、行為自体は慣れてしまっている。でも、相手が今日会ったばかりの、何も知らないヤツだからか、どうしても気持ち悪かった。
「いや、ぁ、ん、ぅ…ふ、ア」
知らない人の指が、俺の中を無遠慮に弄り回す。気持ち悪い。イヤだ。
でも、前はそんなこと思わなかった。イヤだと思っていても、快楽に弱い淫魔の血が、いつのまにか理性を奪ってくれた。だから誰のでも簡単に舐めることが出来たし、結局自ら進んで体を預けていたのも認める。
それなのにどうしてか、今日はなかなか理性が消えてくれない。
「あ、あぁ、や、もうやめて!抜いて!」
「抜いたら次はこっちが入るけどいいのかよ?」
と、先輩が嫌味な笑みを浮かべる。下着姿の先輩のそこは、あきらかにキツそうだった。
「いやだ、やだやだ!」
どうしよう。涙が止まらない。気持ちよくならない。いつもみたく気持ちよくなってしまえば、なんにも考えられなくなってしまえば、こんな無理矢理な行為だって平気なのに。
「はいはい。どうせ何やったってイヤイヤだろーよ」
先輩が乱暴に掻き回していた指を引き抜く。自身の下着をずらして、硬く太いそれを出し、俺の足をさらに広げる。股関節が痛かったけれど、すぐにそれ以上の痛みが下半身を襲う。
先輩が尻の穴に熱を持つそれを押し当て、ゆるゆると奥へ侵入し始めた。
「ぃ、ひぁ、イタ、ぁ、ああっ!」
グイッと腰を掴まれ、さらに奥をカリが擦る。ちょうど前立腺を刺激されて、やっと甘く痺れるような快楽の波を感じることができた。
良かった、やっぱりちゃんと気持ちよくなれる。大丈夫。俺はこういう生き物なのだから、きっとそのうち何も考えなくて済むようになる。
先輩のものが奥まで突き入れられ、俺はだらしなくはあはあと吐息を漏らして喘ぐ。なんだかセックスするのは久しぶりに思った。いつからしてないんだっけ?というか、最近あんまり精液が欲しいと思わなかったのは、なんでだろう?
「あ、ああっ、や、せんぱ、あ、ンん」
「やっと楽しめるようになってきたかよ?ほら、どこが気持ちいいか言えよ」
「ふ、ぁあ、そこ、おくきもちいいっ!」
「いきなり奥かよ。慣れすぎだろ淫乱」
言いながら、先輩が激しく腰を押し付けた。肌と肌がぶつかり合う音が生々しく耳を犯す。その度、息が詰まるほど奥に当てられて、背筋も内腿も電気が走ったみたいにブルブル震えた。
「ん、んぅ、きもち、あっ、ああ、やば、やばいのっ!せん、ぱいっ!きもちいい、うああっ!!」
無理矢理押し出されるようにして、俺のものから白濁した液体が飛び散る。先輩は嬉しそうにニヤリと笑い、俺の体をうつ伏せにして今度は後ろから激しく抜き差しを繰り返す。
「いや、ぁ、ふかい!おくきもちいぃ、もっと、もっとついてぇ!」
頭が真っ白だ。今だけは、もう、何も考えたくない。どうせなら思い出せなくなるくらいめちゃくちゃにして欲しい。ああ、こんなことになるのなら、俺も酒飲んでおけばよかった。
そしたら後で、自分の痴態を思い出さなくて済んだのに。
「ちんぽきもちいいっ!は、ぁ、んひ、やあああっ!?」
先輩が俺の二の腕を掴んで後ろに引いた。ズブズブとこれでもかと奥に、先輩のものが届く。角度が変わったからか、腹を内側から叩かれているような感覚で、硬く張り詰めた下腹部からびゅる、びゅるっととめどなく体液が溢れ出る。
「お前のちんこ節操なさすぎ。何垂らしてよがってんの?噂通りの淫乱ちゃんだな」
「いやぁっ、とま、とまんないっ!!あ、んふ、んっ」
無理矢理首を捻って唇を塞がれる。それで少しだけ、いつもの自分の思考が戻った。
「ヤダっ、お願い中に出さないで!!」
淫魔である自分は、中に出してと先輩のものを必死で締め付けているのが自分でもわかる。でもいつもの俺は、なんでかそれだけはやめてと思った。
いらない。知らない人のなんて欲しくない。理性的な自分は、必死に抗おうとしている。
「はあ?んなのできるわけねぇだろ」
「イヤ、ぁ、んぁあっ、やめ、ヒッ!!」
ドクっと中で先輩のものが脈打ったのがわかった。直後に熱いものが腹を満たす。
たまらなくなってまた涙が溢れた。はやく掻き出さないと。そんなことで頭がいっぱいになる。
「おい、まだへばってんじゃねぇぞ」
「…や、も、ゆるして」
ドサリと押し倒されて、俺は力の入らない体を庇うように蹲る。しかし、先輩はまだ満足していないようで、今度はまた別の体位で挿入しようとしてくる。
一度取り戻した理性は、今度は消えてはくれない。
俺の片足を持ち上げた先輩が、まだ硬く芯を持ったそれを柔らかくなった尻に押し付け、ググッと腰を押し付ける。
「いやだ、もうやめて!おねがい、します…やだやだやだ!離して、離してよぉ!!」
「一回も二回も同じだろ!いい加減黙ってろよ!」
先輩がキレた。片手を振り上げてまた頬を叩く。
涙が溢れる。それはもう、止まることなく溢れ、俺は先輩が満足するまでひたすら泣いていた。
何度中に出されたのか分からないほどぐちゃぐちゃだった。声が枯れ果てて、うんともすんとも言えなくなった頃、やっと意識が途切れた。
ともだちにシェアしよう!