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第43話

 日曜日は一日中飯田のベッドでゴロゴロしていたら、いつのまにか夜になっていた。  飯田は気付いたらいなくて、冷蔵庫のもの適当に食べてと、メールが入っていた。  相変わらず体の至る所が痛かった。中でも尻の穴のフチがジンジンして、切れてはいないけど気になった。泣きすぎた眼と殴られた頬の腫れはずいぶん引いていて、これなら明日の講義には出られそうだ。  夕方に勝手にシャワーを借りて、飯田のぶかぶかの服を借りた。体格差を如実に表したみたいな服は飯田の匂いがして、それだけで堪らない気持ちになる。  昨日散々出したはずなのに、飯田の服の匂いだけで下腹部が熱くなるのだから、俺は相当飯田のことが好きなようだ。  リビングに戻り冷蔵庫を開けると、中にはゼリーやプリン、果物なんかがこれでもかと入っていた。全部俺の好きな甘さ控えめのもので、きっと飯田が気を遣って買っておいてくれたのだ。  ソファの前のローテーブルには、俺のお気に入りのアメコミヒーローもののブルーレイがいくつも置いてあり、これまた飯田が、俺が退屈しないようにと用意したんだろう。  ……俺、めちゃくちゃ愛されてるなぁ。  付き合っているとは言い切れない期間は、ただ過保護で世話焼きなヤツだなぁと思っていた。きっとこうして、誰にだって優しく接してきたんだろうと軽く考えていた。  それが今は、全部自分への愛情だとわかる。なんだかとても照れ臭い。俺のためにと、飯田は俺のことばかり考えているんだ。  飯田が俺にしてくれる分、俺も何か返さないと!  与えられるものを受け取るだけなら簡単だ。でも受け取ってばかりでは、気持ちも一方通行になってしまう。  もう好きだと認めたんだ、これからは俺にだって飯田にできることがあるはずだ。 「よし!」  俺は一言呟いて拳を握りしめた。キッチンへ向かい、再度冷蔵庫を確認する。  飯田ほど完璧ではない俺に出来ることといえば、料理くらいのものだ。幸い食材は結構入っている。というか、飯田は俺のいない間に自炊でも始めたのだろうか?  それくらいには充実した冷蔵庫を見やり、さて何を作ろうかと悩む。  俺の好みは知られているのに、俺は飯田の好きなものを知らない。それなのに飯田は、俺のことを知りたくて美波に相談したと言っていた。それだけ飯田は不安だったんだろうと改めて思う。  その愛情に応えたい。これからは俺も飯田のことを沢山知りたい。そして、他の人からじゃなくて、ちゃんと俺から伝えたい。  そうだ、俺のことを知ってもらうには、料理はいい材料かもしれない。  俺は冷蔵庫から豚肉やトマトを取り出して、また鼻歌を歌いながら料理作りを始めた。 ――――――  夜の十時を回った頃、飯田が帰宅した。 「ただいま」  俺はソファに寝そべって映画を見ていたが、飯田の帰宅に気付いてソワソワと玄関へ向かう。 「おかえり」  飯田は疲れた顔をしていた。どこに行っていたのか聞いてもいいだろうかとしばし悩んでいると、飯田がくすりと微笑んだ。 「何か言いたいんじゃない?」 「えっ」 「どこ行ってたの?って顔してる。寂しかった?」  なぜバレたのだ?飯田スゲェな。 「別に、寂しくなんかないし!」  ああああ、そんな言い方はないだろ俺!!  いざ両想いなんだとわかると、どうしてか素直になれない。なんだこれ? 「本当に寂しくなかった?」 「ほ、ホント寂しくなんかない!」  ふーん、と飯田は呟いて、部屋の奥へと視線を向けた。 「まあいいや。それより、美味しそうな匂いがする」  大きな犬みたいに、鼻をクンクンさせている飯田が面白くて、俺はニッと笑ってドヤ顔した。 「夜ご飯まだ?だったら作っておいたし、一緒に食べる?」 「食べる!つか、一緒にってことは待っててくれたんだ?」  ニヤニヤと飯田が俺の顔を覗き込んでくる。  グハッ、また墓穴を掘った気がする! 「待ってない!全然待ってない!」 「そう?んで、何作ってくれたの?」  と言いつつ、飯田はキッチンへ向かっていく。広いキッチンのコンロに置いたままの鍋の蓋を取って、飯田が中身を確認した。 「赤い」 「トキトゥラっていう、まあ、トマト味のシチューみたいなもんだ」 「へぇ」  生のトマトを湯むきして刻んで、豚肉やらなんやらを煮込んだものだ。 「あるもので適当に味付けしたから、本物の味じゃないけど、一応俺のグランマの故郷の伝統料理なんだ」  本場のものは、内蔵も一緒に煮込んだりもする。さすがにそこまで食材はないし、若干味付けも異なるけれど、味見をした限りでは美味しくできていた。 「どこの国の料理?」 「ルーマニア」 「どこ?」 「自分で調べろよ」  と言うと、飯田はスマホを取り出して検索しだした。  ちなみに、ルーマニアは東ヨーロッパにある。スロバキア、セルビア、ハンガリー、ブルガリアに囲まれた国だ。ドラキュラ伯爵の城がある、と言えば、大抵の人はなんとなく理解してくれる。 「美夜はこういうのも作れるんだ」  スマホを置いて、飯田が感心したように言う。 「まあな。本当はママリガっていう、とうもろこしの粉をぐちゃぐちゃにしたヤツに合わせたりするんだけど、そんなの無いから白米で我慢して」  グランマはちゃんとママリガも作っていた。マミィに料理を教えたグランマも、料理の腕はかなり良いのだ。 「美夜……スゴい!ありがと!」 「え、いや、そんな大した物では、」  ないんだけどと言う前に、飯田が俺に抱きついてきた。 「いい嫁だ」 「嫁!?それはヤメロ!!」 「料理してくれるんだから十分嫁だろ。それに、エロいし」 「エロくはない、ヒァッ!?」  飯田の手が服の下の太腿を撫でた。そういや飯田の服はデカイし隠れるしいいや、とズボンを履くのを忘れていた。 「い、いだ!や、くすぐったい!」  大きな手が内腿を摩る。と思ったら、その手が徐々に上へ上へと移動して、脇腹やヘソのあたりを撫で回していく。 「正直さ、そんな格好で誘ってんのかと思った」 「さそって、な、いっ、ぁ、んん、ぅ」  飯田の指が胸に触れて、わざと敏感なところを避けるように周りをぐるぐると撫でる。  キッチンに後ろ手を付くと、飯田が覆い被さるように迫ってきて、乱暴に唇を塞いだ。 「ん、んふ、ぅ…はぁ、はぁ」  口内を吸い尽くす勢いで塞がれた唇の端から、ダラリと唾液が垂れ、それを舐め取った飯田がイジワルな顔をする。 「美夜は、どうして欲しい?」  相変わらず指は肝心なところを避けて動き、もどかしさと微妙な快感に、俺は足をモジモジさせて顔を背けた。  どうして欲しい?  そんなの、決まってんだろバカ! 「触ってっ、ちゃんと触って!」  半分蕩けてしまった頭が、勝手に言葉を吐き出してしまう。恥ずかしいのに、刺激が欲しくてしかたない。 「いいよ」  そう答えて、飯田は俺の服を捲り上げた。期待にピンと立ったそこを、飯田は容赦なく口に含んだ。 「ぃ、ヒァああっ!?さ、触ってって言ったのに!!」  指とは違う、ヌルヌルした感触が下半身に伝わって堪らない。舌先で弾かれると、そのたびに体がビクビクと反応してしまう。 「あ、ああ、んァ…きもひい、いいだのした、きもちい……」  片方の乳首の先端を甘噛みされて強く吸われると、下着の中の自分のものがドロリと体液をこぼすのがわかってなんとも恥ずかしい。  もうダメだ。我慢できない。昨日は全然欲しくならなかったのに、飯田が興奮するから甘い匂いがして、それでもう、ホント我慢できなかった。 「飯田の、舐めたい……」  ポロリと溢すと、飯田は顔を上げた。 「好きなだけ食べなよ」  唇を片方だけ上げて、嗜虐的な笑みを浮かべた飯田が、デニムの前を開けて大きくなったそれを取り出す。  俺はその場に膝をついて、その硬く熱いものを両手でそっと持ち、先端に舌を這わせる。すでに滲んでいた先走りが甘くて、心が満たされるような、切なくなるような不思議な感覚がした。 「み、や…先っぽばっかじゃなくて、根元まで舐めて」 「ふぁい」  飯田の手が俺の頭を掴んだ。俺は口をできるだけ開けて、飯田のものを喉まで受け入れる。ゴリゴリと容赦なく上顎を擦られ、気持ち良くて目を閉じた。根本を舌で舐めると、ビクッと震えてまた大きくなり、先走りが溢れてくるのを全て飲み込む。 「ん"、ぐふ、ん、んんっ」  閉じていた目を開けて見上げると、飯田は荒い息を吐きながら、一心に俺を見つめていた。フェラして、こんなに心臓がドキドキしたことなんてない。好きな人のものを咥えているんだと思うとさらに甘さが増したような気さえする。 「出していい?」 「ん」  喉の奥に押し付けるように、飯田が腰を動かした。しばらくして、いっそ苦しげな吐息を漏らした飯田が口の中で精液を吐き出した。 「いいだの…おいひぃ」  それをゴクリと飲み込んで呟くと、飯田は嬉しそうに笑う。 「美夜、後ろ向いて。そこに手ついて」 「…?なに?」 「いいから」  久しぶりに満足して、頭がいっぱいの俺を立たせた飯田が、俺の体をくるりと後ろへ向ける。言われた通りキッチンに両手をつく。飯田が俺の下着を下げて放り投げた。 「まだ体つらいだろ?だから入れないけど、これならいいかなと思ったんだけど」  なんだ?と首を傾げると、飯田が後ろから覆い被さってきた。ついでに、俺の足の、太腿の間にぬるっとした感触がある。 「いいだっ!?ちょ、何してんだよ!?」 「素股」  素股、じゃなくて!! 「や、やぁっ!?ちょっと、待って!」 「イヤ、待てない。入れるの我慢したんだから足くらい貸せよ」  ヌル、ヌル、と、足の間を飯田のまだ硬いものが抜き差しされ、ついでに俺のものの裏側や、玉の付け根まで刺激していく。 「あっ、や、なにこれ…」  意外に気持ちいいかもしれない。それに、まるで入れている時のようなリアルな水音までするのだ。 「美夜の太腿気持ちいい。ムチムチしてて、尻に入れてんのと変わんない」  なんだかそれも複雑だけど、そんなことより。 「うら、ぁ、擦れてきもちいいっ!」 「そう?良かった。美夜が喜んでくれて」 「あ、ああ、はげしっ、や、ンぁっ」  パン、パン、と肌がぶつかる音がキッチンに響く。 「いいだっ、あぅ、でる!もうでちゃう!!」 「いっぱい出せよ」 「ん、んふ、ぁ、〜〜〜〜ッ!!」  二人分の荒い息遣いが混ざる。射精の後の虚脱感でぐったりした俺を、飯田が背後から支えてくれる。 「気持ちよかった?」  まるでイジワルだ。気持ち良くなかったら出るものも出ないよ、と俺はニヤッと笑う飯田を睨みつけた。 「飯田にされることならなんだって気持ちいいよ」  そう言うと、飯田はポカンと口を開けて、驚いた顔をした。俺がそんなこと言うとは思ったなかったんだろう。  でも事実だ。セックスなんて精液を貰うついでみたいなものだと思っていたけど、好きな人となら別だ。 「美夜…愛してるうううっ」 「やめ、抱きしめるな!ベタベタするな!」  ああもう。せっかくご飯作って待ってたのに。本当はお腹すいてたけど、我慢したのに!! 「いい加減離れろ!ほら、シャワー浴びるだろ?」 「うん……一緒に?」 「仕方ないなっ!一緒に入ってやるよ!」  やった!と飯田は拳を握った。たかだかシャワーくらいで、普通そんなに喜ぶか?  まあ、これからは、たまになら一緒にはいってやってもいいか。  ああダメだ。好きなのに、もっと好きになっていく。こんなの、俺らしくないのに。  その後、俺はベタベタくっついてくる飯田を押しのけながらシャワーを浴びて、遅い夕食を食べた。  飯田は俺の作った料理を、おいしいといって沢山食べてくれて、もう俺嫁でもいいやと、不本意ながら思った。

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