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第47話 番外編 飯田の話3
「運命、って、飯田は信じてる?」
美夜の視線は、相変わらず下を向いていて、オレは返答に困った。
運命。それはいつだって聞こえの良い言葉だ。
例えばオレは映画が好きだ。
思わず時間を忘れて、喉の渇きも忘れるくらいに熱中するような映画に出会えた時、それは運命に他ならない。
オレはこの映画を待ち望んでいた。これを観るために、この世の、この時代に生まれてきたんだ。そう思うくらいには、映画が好きだ。
オレにとって運命とは、なんて軽いものだろう。どうせ映画なんて、数ヶ月もしたらまた違うものを気に入って、記憶の中に忘れはしないけれど思い出すことも稀なものとして残るだけなのに。
そしてそんな映画の中の主人公は、必ずと言っていいほど最初に出会った女性と恋に落ちる。
それこそまるで運命であったかのように、惹かれあい、キスをして、体を重ねる。
こうなることが運命だと言わんばかりに、必ず。
でも実際のところ、オレが主人公だったなら、トラブルを抱え、敵に命を狙われ、すぐに捕まって人質になるような女を、運命の相手だなんて思わない。
結局映画はファンタジーで、吊り橋交換的なアレで、だから運命なんてそうそう感じるものじゃないと思うくらいには現実的なつもりだ。
ただ女は運命という言葉に弱いから、過去のオレは、どこかのホテルでその場を盛り上げようと、適当に言ったことをはあるかも知れない。そう、今し方美夜に使ったように、軽々しく。
「運命って、答えがわからない時に、はぐらかすための言葉みたいだとオレは思う」
そう言うと、美夜は軽く頷いた。
「俺もそう思う。だって、転校生に一目惚れしたり、手が触れ合ったり、偶然バイトが被っただけで恋に落ちたりはしないよな?そういうわけがわからない感情を、運命だって片付けてるんじゃないのかよ、と俺は常々考えてきた」
ところで、美夜は恋愛ものが嫌いだと常日頃言っているけれど、姉たちの影響か、恋愛もののシチュエーションにかなり詳しい。本人に指摘したことはないが、実際のところ嫌いじゃないんじゃ?とオレは思っている。
「だけどな、飯田。今気付いたんだけどさ」
「何だ?」
随分と勿体ぶるなあと思った。しかも美夜の顔がどんどん赤くなって、言いにくそうに唇が震えている。
「俺には飯田がそうなんじゃないかなって、思うんだ」
「プロポーズ?」
「違っ!?ぁ、違わない?いや、まだ違うかもしれないけどっ」
「?」
耳まで赤くした美夜が、首を振ったり傾げたりして慌てている。可愛い。可愛いけど、違うのかよと悲しくもなる。あと、本音を言えばプロポーズはオレからしたかった。
「つまり!!俺、淫魔だから!!そういうの、わかるっていうか、あるんだよ!こっちにも色々!!」
「……どういうこと?」
「だから、マミィにとってのダディみたいに、この人だっていう相手がいるんだよ。その人の精液は、びっくりするぐらい美味しくて、もう他のじゃダメで、その人と、セ、セックスしたらとんでもなく満たされて、自分の欲求を抑える事ができるようになる。そんな、『運命の相手』ってのが、淫魔にはあるんだよ」
そうなんだ。初めて聞いた。淫魔ってほんと、知れば知るほど不思議な存在だ。
……いやいやいや、待てよ。
今の話から…だけじゃない。美夜の真っ赤に火照った頬と、少し潤んだ瞳を見て、オレは理解した。
「…それって、美夜の『運命の相手』が、オレだってこと?」
「多分。まだ自信はない。でも、飯田のは…その、他と比べられないくらい甘くて、俺いつも同じ人のはもう一度欲しいと思わなかったのに、飯田のはいつだって欲しいと思う。飯田の貰った後、いつもよりお腹いっぱいだと思うし、前ほど衝動的な欲求を感じなくなった」
それは、もう間違いないんじゃ?と、オレは思うが、美夜はまだどこか納得していないようだ。
「飯田はなんで俺のこと好きでいてくれるんだろうって、ずっと不思議で、それこそ運命なんて曖昧な言葉で片付けられたらどうしようって思ってた。でも飯田の話を聞いて、ずっと前から見てくれてたんだってわかって、嬉しかった。小銭、拾ってくれたのも覚えてるよ。飯田だけが手伝ってくれたから、すごく嬉しかった」
あの時、ちゃんとありがとうを言えば良かったと、美夜は苦笑を浮かべた。でもオレは、あれはあれでよかったと思う。あの時もし顔を見て、同じように一目惚れだと告白しても、今と同じ結果にはならなかった気がする。
「飯田はちゃんと俺に近付いてきてくれたのに、俺、実のところどうして飯田が好きなのかよくわからない。優しいし、カッコいいし、いつも俺を助けてくれるところは確かに好きなんだけど、でも」
しゅんと落ち込んだかのように、美夜はまた俯いてしまう。
「淫魔だから、飯田の精液が欲しいだけなのかもしれない。好きだと思うのは、そう言えば精液を貰う口実になるからだって思う自分がいる」
なるほど、とオレは頷いた。美夜は自身の気持ちと淫魔の欲求の間で悩んでいる。
人を好きになったことがないという美夜。
だからこそ、オレはとても愛しいと思う。
「美夜は、なんでオレに食事を作ってくれるんだ?」
「え?それは、美味しいって言ってくれるから、だけど」
「じゃあ、どうして一緒にいてくれるの?大学でも、こうして大学終わった後でも、土日も」
「だって楽しいから。飯田といるのは楽だ」
「もし美夜が、本当にオレの精液だけ欲しいなら、毎日一緒にいる必要はないんじゃない?欲しい時だけ会えばいいんだから」
「それは…そう、かもしれない」
「美夜はちゃんとオレのこと好きだよ。誰かのために何かできるのは、その人のことが好きだから。大事だからだ。それが家族以外に向いたなら、きっと恋なんだよ」
「ん…そっか。じゃあ…今とても、シしたいと思ってるのも、俺が飯田をちゃんと好きだからってことだよな?」
冷めてしまった料理が並ぶテーブル越しに、お互いの視線が合わさった。
どちらともなく、席を離れる。そのまま美夜の体を抱き寄せ、リビングのソファに押し倒す。
オレの下で、真っ赤な顔をしている美夜が、御伽噺の中に出てくる淫魔にはとうてい見えない。淫に相手を誘惑するどころか、恥ずかしそうに体を震わせているのだ、精液が欲しいだけならこうわならないよなと、オレは嬉しく思う。
「いいだ…んっ、ンン」
小さな唇を貪るように塞ぐと、美夜は鼻にかかったような喘ぎを洩らす。必死で縋ってくる舌を吸い、甘く噛むと美夜の体がビクッとした。
さらに深く唇を重ね、同時に美夜の服を脱がしていく。白く透き通る肌に、ピンクの可愛らしい突起がツンと存在を主張していて、オレはそこを指で摘んだ。
「あっ、ひゃあ!?」
「可愛い。美夜のここ、敏感で触りがいがある」
「ヤダぁ…摘むなぁ」
ふるふると小さく頭を振って、目尻に涙を溜める美夜が愛しい。
運命なんて軽い言葉で美夜との関係を表したくはない。でも、美夜にとって運命が言葉だけのものじゃないのなら、オレはそれを嬉しくも思う。
オレが美夜にとってただ一人の相手だなんて、嬉しくないわけがない。
「あ、ぅん、ふっ…いいだ、いいだ!良い匂いがする…好き、甘い匂い好き……」
トロンと蕩けた表情の美夜が、軽く首を持ち上げて視線を向けているのは、間違いなくオレの下半身だ。淫魔である美夜は、セックスの興奮を匂いで感知するらしい。
「好きなのは匂いだけ?なら鼻でも摘んでやろうか?」
そう言うと、美夜は蕩けた顔でイヤイヤと首を振った。普段から素直ならもっと可愛いのに、と思うが、しかしこのギャップがまた唆るのも確かだ。
そしてオレは、美夜の可愛さに、段々といつもの感情が湧いてくる。
「いい、だ?早く、触って……飯田?おい、ちょっと?飯田っ、や、ヤメッ、痛い!!」
ガリっと歯を立てて乳首を噛む。美夜がゾッとした顔で叫んだ。
だけどオレはもう止まれそうにない。なんせ二週間もヤってない。溜まっていたんだよ、結構。
「どこ触って欲しい?言えよ、ちゃんと。じゃねぇとわかんねぇから」
「ちょ、飯田!?噛むなって、イタッ、やめて、痛いっ!」
「痛い痛いって言うわりに、しっかり勃ってんじゃん。変態」
ズボンと下着を乱暴に抜き取る。ぷるりと顔を出した美夜のものが、先端からどろりとしたものを垂らしながら震えていた。
「ちゃんと言うまで触ってやんねぇから、な!」
グイッと美夜の両足を折り、隠れた秘部を露わにする。
「飯田!ちょっと待って!ねぇ!?聞いてる?いいだああああっ!!」
一度スイッチが入ってしまうと止まれない。
「オレが『運命の相手』なんだろ?だったらお前はオレの為に体を差し出せばいいんだよ。な?そしたら美味しいの喉にもケツにも好きなだけ注いでやるから」
「鬼畜!クズ!変態!」
シクシク泣き出した美夜が可愛くて、オレはニヤリと笑って手を動かす。随分と受け入れやすくなった尻の穴に、無理矢理指を突き立てる。
「ィタァッ!?や、抜いてっ、いいだ…ん、ぁ、ヒッ!?」
「ここ好きだろ?なあ、淫乱美夜ちゃんは尻イジられて喜んでんだろ?」
「ぁっ、そこぉ!も、もっと押して!気持ちいいっ!」
ほら見ろ。即落ちじゃん。何がイヤだよ?
可愛すぎる美夜が悪いんだと心の中で言い訳をして、オレは久しぶりの美夜の中を堪能した。
……この後めちゃくちゃキレられ、美夜はしばらく口を聞いてくれなくなるのだが、『運命の相手』と言われたのが嬉しくて、オレは美夜の機嫌が治るまでめちゃくちゃ我慢した。
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