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第48話 番外編2 好奇心
それは土曜日の、昼下がりのことだった。
昨日から降り続く雨のせいで、予定していた買い物へ行く気の失せた俺と飯田は、昨晩夜更かしして映画を観ていたせいもあって、いつまでもベッドの上でゴロゴロしていた。
飯田が俺に買ってくれたフワフワモコモコのパジャマの着心地が悪魔的に良いことも、飯田のベッドが俺の体を吸い込んでしまいそうなほど寝心地が良いことも、なかなか起きられない要因となってもいた。
「トイレ」
同じく隣でゴロゴロしていた飯田が、ひとことそう言ってベッドから降りる。スプリングが軋んで、俺はベッドの中央へ転がる。上を見ると、丸い電気のカバーが視界に入り、そういやだいぶ室内が暗くなってきたことに気付いた。
電気付けようかな。確かリモコンがその辺の引き出しに入っている筈だ。
そう思ってベッドサイドの引き出しに手を伸ばした。一番上の引き出しに、リモコンを発見。電気をつける。パッと室内が明るくなった。
一段目、二段目は同じ大きさの引き出しで、一番下の三段目は少し大きな作りとなっていて、ふと思い立ってその引き出しを開けた。
中には、飯田の趣味の品々が収められている。エゲツない見た目のバイブ、バイブ、バイブ。きっちりケースに入れられたブジーに、黒光りする革の拘束具に、色とりどりのローター、ローター、ローター……
あの爽やかなイケメンが、ベッドサイドにこんなものをこんな数隠し持っていると、一体誰が想像するだろう。
引くわ。マジで、ドン引きするわ。
人には少なからずギャップがあるけれど、こんなに可愛くないギャップもまた珍しい。
つか、このブジーって、俺が覚えてないだけで使ったんだよな……
覚えてないだけで、入ったんだよなぁ……
「うわぁ、痛い」
想像するだけで痛いわ。ちんこの先がジンジンする気がする。覚えてなくて本当によかった。
しばらく引き出しの中を眺めていると、いかにもな形のオモチャの中に、見慣れないものを見つけた。
恥ずかしいかな、俺は同年代の男子の中でも、そういう知識に乏しい自信がある。ご存知の通り未だ童貞だし、家でのプライバシーなんて無いようなものなので、えっちなものは避けて生きてきた。
信じてはもらえないかも知れないけれど、もともと性欲もあまり無くて、月に一度風呂で適当に抜くくらいのものだった。
だから、俺はその、変な形の物を知らなかった。
「なんだこれ…スゲェ」
黒い見た目の、手のひらくらいのそれは、当然お尻に入れる物なんだろうけれど。
なんだか独特の形だ。バイブのように、これ見よがしに突起がついているわけでもなく、ものすごい大きいわけでもない。どこか前衛的な美術品のような見た目とでも言うか……俺一体何考えてんだ?
ちょっとだけ、ちょっとだけ入れてみてもいいだろうか。
いや、俺は変態じゃない。入れる?どこに?ケツに?そもそもケツは入れるところじゃないんだぞ、俺!!
でも、さ。バイブはなんとなくわかるんだよ。絶対気持ちいいって。だって大っきくて、このイボイボで前立腺を刺激されたらたまらない。きっと奥の奥まで届くだろうし、しかも動くんだぞ?そんなん気持ちいいに決まってる。
じゃあこの、変なヤツはどうなるんだろう?うねうねした見た目はグロいけど、そんなに大きくはない。あと取れなくならないような親切設計だ。
「やるか」
やめておけばいいのに、二十歳になってから俺の貞操観念は死んでしまったようで、好奇心には勝てなかった。ここが飯田の家で、飯田の爽やかな香水の匂いと、甘い余韻のような匂いが混ざっていることもダメだった。
俺は躊躇いなくパジャマズボンも下着も脱ぎ捨て、四つん這いになった。枕の下に転がっていたローションを手に出し、適当に尻に塗りつける。
全く、慣れって怖いな。もはやお尻に指を入れるのも抵抗が無いなんて。きっと淫魔の血が悪いんだ。俺は何にも悪くない。
「ん、ぅ…はぁ…」
人差し指と中指くらいなら楽に入ってしまう自分の尻に絶望を感じないこともないが、しばらく抜き差ししていると、快感に頭がバカになってくる。
もういいかな。あんまりデカいものじゃないし、入るのは入るよな。
なんて、お気楽に考えて、俺はその変な形のオモチャを、躊躇いなく尻に挿れた。ヌルヌルと徐々に入っていく感覚に、なんとも言えない背徳的なものを感じる。飯田のより遥かに細いけれど、まあ、悪くないんじゃないか?と思った。
ぬぷ、と全部飲み込んだのを確認して手を離す。T字型のそれの外側の突起が、ちんこと尻の穴の間を圧迫するのが変な感じだ。
「ん…、どうすんの、こっから」
正直、前世物足りない。なんて考えながら、尻に意識を向けた時だった。
「ぁ、ハッ、なん、え?」
突然の快感に、一瞬体が震えた。ほんの少しの刺激だったけれど、多分無意識に尻に力を込めたのが悪かった。
「や、な、なに、ヒッ!?ぅ、あ、ああ、当たってる、当たってるぅ!」
穴が収縮するのに合わせて、そのオモチャが中の良いところを的確に圧迫する。そのことに気付いた途端に怖くなった。自分で動かしているわけじゃないのに、快感を求める体が勝手に尻を動かして、その度にオモチャの先端が前立腺をダイレクトに押すのだ。
「ひぁ、あっ、やだやだっ、いっちゃ、あ、ああああっ」
ギュッとシーツを握りしめて、震えるほどの快感に耐えた。ビリビリと背を走る刺激は、だけどなかなか引いてはくれない。
それどころか、さらにオモチャを締め付けてしまう。そうするとまたあの、強烈な刺激が全身を駆け抜けていく。
「イった、のに!あ、ああっ、またくる、きちゃうううっ、ヒッ、ぁ……ッ」
止まんない。なんで?助けて!怖い、また、いっちゃう!!
こんな強烈なものだとは思わなかった。後悔してももう遅い。早く出したいのに、震える手はシーツを掴むのに必死で、どうにもこうにもできそうにない。
「美夜、お腹すいた?ピザでも頼む?」
その時、ガチャリと扉が開いて、飯田の声がした。
「いいだっ、ぁ、あ"あ"、死んじゃうっ!取って!これ取って!!」
「え、美夜?なにしてんの……?」
「ひ、ぅ…ッ、ぁ、あ、んんんんッ、はぁ、はぁ……いいだ…助けて」
気持ちいいのが止まらない。本当に死ぬ。もうダメだ、と必死で飯田に縋ろうとした。
「美夜…エネマグラなんか入れたの?自分で?」
「エネ?なに?…それより、はやくとって!きもちいいとこばっかあたって、くるしっ」
「そりゃ前立腺マッサージ用の医療器具だし。そこにしっかり当たるように作られてんだから仕方ないだろ」
「ぁ、ああ、ゔ、ふぅう、や、もうヤぁ…しぬ、しぬ……」
ああ、またイった。もうムリ。
呼吸もままならなくて、頭が真っ白になる。飯田はそんな俺の隣に座って、ニコニコしていた。
「気持ちいいんだ?ヨダレたらすくらい感じてんの?」
「ひ、ぁう…いいだぁ…とって…おねがい…」
「イヤだね」
「…え」
助けてくれないの?と、飯田を見やる。その手には、いつのまにか小さなリモコンが握られている。
「ひとりで良いことしたお仕置きしなきゃ」
「おしおき…?なんで?イヤだ、イヤだやめて!」
懇願する俺に、飯田はニタリと口角を吊り上げる。
飯田が、リモコンのスイッチを押した。
「ア"ア"ア"ア"ッ!!!!ヒッ、は、ぁ、〜〜〜〜っ!!」
尻の中のものがブルブルと振動する。それが、前立腺を容赦なく刺激して、俺はみっともなく大声をあげ、腰をシーツに擦り付けてイった。
「美夜…すごいなぁ。出さずにイけるなんてさ。初めてこれ使って、そこまで感じる人いないよ。しかも何度目?めちゃくちゃ痙攣してるけど大丈夫?」
「ぃ、いだ…も、ヤダ…」
意識が朦朧としてきた。なのに、体はまだ快楽を貪ろうとしている。そうやって開閉を繰り返す尻から、飯田がオモチャを引き抜いた。
「ぅ、あ……」
ぬぷっとヤラシイ音がした。俺はホッとしてベッドに力尽きた。
「はぁ…死ぬかと思った……」
少し正気に戻ると、自分のちんこが破裂しそうなほど硬く、あれだけイったのに出さなかったんだということに驚いた。そんなことあるんだ、とまた新しい発見に感心すらした。
あんまりにもホッとして、そんで、飯田の存在を一瞬忘れてた。
「美夜のお尻、いい感じじゃん。出さなくて辛かったろ?次はこんなオモチャじゃなくて、オレので同じくらい気持ちよくしてやるな」
「え"っ!?俺もうムリだよ!?」
「ダメ、許さない。ひとりで楽しいことしてたバツ」
何度罰を受ければいいんだ!?
「いいだっ、あ、やだ、ヒィ、あ、あうっ、ああ、いいだのあついよぅ…おく、きもちいいっ」
結局、オモチャでは味わえない熱と、激しさに負けた。どの道のしかかってこられると逃げられない。
飯田はうつ伏せの俺に跨って、激しくちんこを突き入れてくる。
「ッ、ぁ、ヒッ、あ、ぁ…すご、お、おくあたるのっ、きもち、や、ああっ」
背中に飯田の重みを感じつつ、やっぱり俺は、オモチャじゃなくて飯田がいいやと思った。
そんでもって、エネマグラなんかもう二度と尻に入れるものかと、固く心に誓った。
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