28 / 250
面影の数だけ微熱が残る 5
就職を機に病院から自転車で5分弱くらいのところに1DKのマンションを借りた。
正式に生理検査室に配属されてまた夏の季節がやって来たころ、久しぶりに俺は繁華街に出向いていた。
相変わらず行きずりの関係を結ぶことも多かったが、今日はそういうのは抜きで飲みたい気分だったので、1年位前からよく通っているバーに足を運ぶ。
ここはマイノリティな俺たちが過ごしやすい空間だった。
店の雰囲気もどこかレトロで落ち着いていて、客が来る度に聴き心地の良いドアベルの音が優しく響く。
カウンターの端で飲んでいるとまたドアベルが控えめに鳴った。
なんとなく視線をそちらに向けるとスーツ姿の男がいて、思わずその後ろ姿に見入ってしまう。
男は傘を畳みながら体についた水滴を払っていた。どうやら、外は雨が降っていたらしい。
でも俺が思わず見入ってしまったのは、その後ろ姿やその背格好、雰囲気が和臣によく似ていてハッとしたからだ。
このように日常生活の中で和臣に似た人を見かけると、どうしても目で追ってしまうのだ。
ともだちにシェアしよう!