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歯車は噛み合わない 3
常に玉の輿アンテナを張っている神崎は、その柔らかい外見の印象に似合わず転んでもただでは起きない性格をしていた。
「私決めた! 絶対にあのMRさんとお近づきになる! あの人に彼女がいたとしても同僚を紹介してもらえるくらいに!」
「そう言いながら、研修医とかポリクリとか見たらそっちに行くんだろ?」
「甘いわね、藤森くん! 研修医ならともかくポリクリには手を出さないわよ」
「なんで? ポリクリ生は未来の医者じゃん」
「国家試験の合格待ちってとこね!」
そう言い切る姿はたくましさすら感じた。
「神崎って見た目とは裏腹にたくましいよな」
ぼそっと呟くとそれは神崎の耳に届いたようで。
「なにそれ、野村くん。それって誉めてるの?」
「褒めてると思う」
「それならいいけど」
そう言いながら神崎は飲みかけのチューハイをテーブルに置いて、今度は不思議そうな顔をして俺の顔を覗き込んだ。
「でも、どうして藤森くんでも彼女いるのに野村くんは彼女いないんだろ~?」
「私も思った。藤森でもいるのにね」
「おい、お前ら。俺の彼女に謝れ!」
「別に理由とかないけど」
すると上原が頬杖をつきながら真っ直ぐに俺を見た。
「もしかして忘れられない人がいるとか?」
不意に一瞬。
和臣の顔が浮かんだ……。
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