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憂える胸を焦がす 5
「陽斗! やっぱここにいた。生理検査の技師さんが陽斗は多分この食堂使うって言ってたから来たんだ」
すると和臣も定食を注文し、トレイを持って向かいの席に座る。
「ほんと、久しぶりだな。さっきはびっくりした。野村って呼ばれてたから他人の空似かなって最初は思ってたんだけど」
「野村っていうのは母方の姓だよ。でも、お前の志望校ここの附属大じゃなかっただろ?」
「うん。高3の秋にここの教授の講演みたいなの聞く機会があってさ、それで志望校変えたんだ」
「そうだったんだ」
俺はそっと箸を置いてまっすぐに和臣を見る。
ずっと謝りたいと思ってた。
「和臣。高3の時、何度も連絡くれてたのに一方的に断つようなことして……ごめん」
すると和臣は柔らかく笑った。
「気にするな。家の事情があったんだ。不安定になって当たり前だ。謝らなくていいよ」
「でも……」
「怒ってないから。こうやってまた会えたことの方が嬉しいから」
そう言いながら和臣は定食のから揚げを口に運ぶと、またにこっと笑った。
「週末、飲みに行かないか? 陽斗と久しぶりに話がしたい。それに、酒も一緒に飲んでみたい」
冷え切っていた心が一気に温まっていくのを感じていた。
もう会えないと思っていた相手が目の前にいて、きっと俺は浮かれているに違いない。
今日はまだ月曜日だというのに、今から週末が待ち遠しくてたまらなかった。
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