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逃げたくなる気持ち 9
「してない」
掴まれた腕を振りほどき睨みつけるような強い視線を向けると、賢はもの悲しげに微笑んだ。
「でも、あながち間違いじゃないだろ?だからオレとも付き合えないんだろ」
いつもならもっと飄々として言い返してくるくせに、今日はどこかしおらしく、調子が狂う。
「この間から何なんだよ!!」
そんな賢の態度に苛々して大きな声を出しても、賢は動じることなく微笑むだけだ。
「オレは本気だよ。陽斗が高校生のときからね」
静かに呟いた言葉は耳に残って、更に居心地を悪くする。
「俺は誰とも付き合ったりしない」
「オレとはキスもしないんだもんね」
「……誰ともキスなんかしない」
そう言いながら、不意に和臣の顔が浮かんだ。
これは、しないんじゃなくて、できないの方が正しいか……。
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