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温もりが欲しいとか言えない 7
本来ならきっと出会うことすらなかった二人が目の前で話をしている。
和臣に賢の話なんてしたことはないし、逆もまた然りで。
賢の前で和臣の話になるわけもないので、視界に入る二人を見ながら、なんとなく言い様のない居心地の悪さを感じていた。
最初は神崎や藤森も会話に入っていたのだが、暫くすると各々好きにしゃべり始め、いつの間にか和臣は賢と抗がん剤や治験の話など専門的な話に花を咲かせていた。
「へー、そう作用していくのか。すごくわかりやすいですね」
「千葉くんの理解力がいいんだよ」
今は同じ疾患に使う薬の作用機序の違いを賢が説明している。
自分で結構稼ぐ営業だと言っているだけあって、賢の話は確かにわかりやすい。
和臣も興味のある分野の話だからすごく楽しそうに話を聞いているように見えた。
───…そんな時だ。
和臣たち会話を聞きながら、ゆっくり飲んでいたとき。
不意に賢の言葉が耳に入ってきた……。
「ねぇ、千葉くん。違ったらごめんね」
「何がですか?」
「もしかして千葉くんの下の名前って、…─────“カズオミ”って言う?」
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