81 / 250

温もりが欲しいとか言えない 8

……何故、賢が和臣の名前を知っているんだ? 無駄に、コップを掴む手に力が入った。 思わず顔にも出てしまった気がする。 でも、俺の焦りなどは気にすることなく二人は話を進めていった。 「そうですけど。あれ? 俺、下の名前言いましたっけ?」 「いや千葉くんからは聞いてないけど、陽斗からよく聞いていた名前だったから、千葉くんのことかな? って思ったんだよ」 「えー、なんだよ陽斗。俺には河北さんの話しなかったくせに、俺の話はしてたのかよ」 「え、いや……」 嘘だ。俺は賢に和臣の話なんて一切していない。 なんせプライベートな話はほとんどしなかったんだ。 だから、賢が和臣のことを知っているはずなんてないんだ。 でも、賢は焦る俺のことなど構うことなく話をどんどん進めていく。 「よく聞いてたよ。ちなみに千葉くんは陽斗の初恋の話は知ってる?」 「聞いても教えてくれないんです」 「そうなんだ。叶わないのに未だに未練があるから次に進めないんだよね」 賢はさも知っているかのような口振りで、哀れむように眉を寄せた。

ともだちにシェアしよう!