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残酷さえも手放せない 5
暗闇に目が慣れてきたころ、ぼそっと呟くように和臣の声が聞こえてきた。
「ありがとな。しかも家主を床に寝かせてすまん」
「気にするな」
「なんか、こういうの懐かしいな。修学旅行みたい」
「確かに、修学旅行も同じ部屋だったもんな」
「俺と陽斗は何するのもずっと一緒だったからな」
すると和臣が寝返りをうち床に寝る俺を覗き込むように見た。
「修学旅行っていったら深夜の暴露大会覚えてるか? みんなで誰が可愛いとか好きだとか暴露したやつ。でも、陽斗は最後まで頑なに口を閉じたままだったっけな」
「そうだったか?」
「陽斗は頑なだった」
懐かしい話に加えて和臣があからさまに口を突き出して膨れてみせるから、面白くて笑っていると。
和臣は、今度はなんだか少し神妙そうな声で呟いた。
「なんで俺だけ知らないの?」
いったい何の話だと聞き返すと、また落ち着いた声が響く。
「陽斗の初恋の話が知りたい」
「……なんでだよ。今更だろ」
「俺だけ知らないなんておかしい」
きっとこないだの飲み会のことを言ってるんだなと思った。
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