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儚く溺れる 7
そしてベンチに座ると貸してもらう約束をしてたミステリー小説を渡される。
「ありがとう」
「俺の方こそ、わざわざ本届けてくれてありがとうな。本当は部屋でコーヒー振る舞うつもりだったんだけど、今占拠されてるし」
さっきの彼女は隣のやつに任せてきたって言ってたけど、作業はそのまま和臣の部屋で行われているようだ。
「……仲、いいんだな」
「まぁ、同期だしな。あの寮に住んでる連中とは仲いいよ」
「さっきの子可愛い子じゃん。付き合ったりしないの?」
また思ってもいないくせに、言わなくてもいいことを言っている自分に嫌気がさす。
「なんだよ。陽斗のタイプなのか!?」
「そんなんじゃないよ」
「ないって。それに今はそういうの煩わしいし」
「でも、同じ医学生だから話も合うんだろう」
「話があっても価値観が合わないと無理だろう」
幾度となく和臣との話の中にはこの“価値観”という言葉が出てくるのだが、それについて和臣が具体的に話したことはなく、実際はあまりよくわからないのだ。
「俺はお前のその価値観ってやつがよくわからない」
「そうか? 陽斗ならわかるかと思ってたんだけどな」
「わからないから聞いてるんだろ!?」
すると和臣はクスクスと笑い、またあの言葉を投げかけた。
「だから、陽斗が彼女だったら何も問題ないんだよ」
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