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儚く溺れる 10
その沈黙がどれくらいだったかはわからない。
数分かもしれないし、ほんの数秒だったかもしれないけれど、俺にとっては永遠にも近い長さに感じた。
しまった。という気持ちもあったけど、頭の中はどこか冷静で、これも当然の反応だと感じていた。
所詮、俺はそうなれないのだから。
無理に取り繕う方が見苦しい気がして、努めて冷静に言葉を発した。冷めている頭とは逆に微かに声が上ずりそうになったけど出来るだけ普段通りを装う。
「なんて顔してんだよ。冗談だよ」
すると和臣は氷が解けたかのように表情を緩めて力なく笑った。
「陽斗は顔が綺麗なんだから、真剣な顔で言うと冗談が冗談に聞こえない」
「顔は関係ない」
無理やり笑顔を浮かべてコーヒーを飲み干し、空き缶を近くのゴミ箱に捨てた。
「ごちそうさま。俺は帰るよ。レポート頑張れよ」
笑顔で手を振り、公園で和臣と別れるとそのまま駅まで前だけをみて歩いた。
和臣に背を向けた瞬間、自分の顔から表情がなくなるのがわかった。
不思議と涙は出なかった。
でも……、心はひどく乾いていた。
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