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純情オレンジ 9
思いもよらぬ言葉に一瞬顔が引きつった。
でも、河北さんのことだ。俺をからかう嘘かもしれないと思って表情を強ばらせると、それに気付いた彼はまた笑う。
「また怒らせちゃった? でも、いい思い出なんだから、これくらい思い出したっていいだろ?」
「…………」
意外と嫉妬深いんだねーと、軽快に笑う姿は嘘をついているようにはどうしても見えなくて。
俺をからかっているわけじゃないってことか?
「なんだよ! 本気で怒った? ごめんごめん」
軽い口調ではあるが謝る河北さんの口振りは、でまかせを言ってるようには思えず俺は戸惑いを隠せない。
俺だけが陽斗に避けられてるのか?
俺だけが知らないのか?
でも、今それを悟られるとやっかいだ。でも、知りたいとも思ってしまう。
「本当にどうしたんだよ」
そんな時、河北さんが不意に俺の顔を覗き込んだ。
やばい。動揺してるのがばれてしまう。
とっさに表情を作ったけどそんな俺を見て河北さんはにやりと笑ったんだ。
「もしかして、陽斗と寝てないの?」
しまったと思った。
「そ、そんなことない!」
「ふーん、まじ? あの陽斗がね~」
意味深な言葉だけを残しながら「じゃあ、アポの時間だから」と言って空になったコーヒーの缶を手に立ち上がる。
「ま、待ってよ」
「ごめんね。仕事だからね」
「でも、言いかけで行くなんて気持ち悪いし」
「別に、意外だな〜っていうオレの感想だよ。ま、物足りないならいつでも帰ってきていいよって陽斗に伝えといて」
「誰が言うか!!」
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