229 / 250

純情オレンジ 16

ここでやめておけばいいのに。 今まで陽斗がそうしてくれたように、言葉を飲み込んでしまえば険悪な空気にはならないのに。 でも、俺の中でも不安定な感情が大きくなっていく。 「でも、そうとしか思えない。どうして俺は陽斗に触れられない? どうして俺だけ」 「だって和臣は忙しいじゃないか」 「忙しいのは仕事してる陽斗だって一緒だろ?」 「俺は仕事も慣れてるし、今はそんな忙しくねぇよ」 「だったら余計に理由になってないじゃないか!」 今、すげー恥ずかしい。 いい大人が恋人困らせて駄々こねて。 でも、高ぶった感情は止められなくて、それは陽斗の方も同じで、いつの間にか言い合いのようになってしまった。 「俺の仕事と、和臣の実習は違うだろ!」 「ああ、俺はどうせ学生だからわかんねぇよ!」 「そう言うこと言ってるんじゃないだろ! お前の実習は将来を左右するからこっちは!!」 「だから何だよ!」 「和臣に負担にならないように考えるのは当たり前だろ!?」 お互いに熱くなってしまって、売り言葉に買い言葉でどんどん声が大きくなっていく。 こんなに言い合ったのも初めてだ。 「俺だって自分のことは自分でコントロールくらいできる!」 「でも、和臣は集中すると周りの雑音でも煩わしく感じるじゃないか!」 「そうだけど、本当にそうなら自分の家に帰ってるよ!」 「だったら帰ればいいじゃないか!」 その時、自分の心の中にある糸が切れたような気がした。 「でも、俺は陽斗の家に来てるじゃないか!!」

ともだちにシェアしよう!