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純情オレンジ 16
ここでやめておけばいいのに。
今まで陽斗がそうしてくれたように、言葉を飲み込んでしまえば険悪な空気にはならないのに。
でも、俺の中でも不安定な感情が大きくなっていく。
「でも、そうとしか思えない。どうして俺は陽斗に触れられない? どうして俺だけ」
「だって和臣は忙しいじゃないか」
「忙しいのは仕事してる陽斗だって一緒だろ?」
「俺は仕事も慣れてるし、今はそんな忙しくねぇよ」
「だったら余計に理由になってないじゃないか!」
今、すげー恥ずかしい。
いい大人が恋人困らせて駄々こねて。
でも、高ぶった感情は止められなくて、それは陽斗の方も同じで、いつの間にか言い合いのようになってしまった。
「俺の仕事と、和臣の実習は違うだろ!」
「ああ、俺はどうせ学生だからわかんねぇよ!」
「そう言うこと言ってるんじゃないだろ! お前の実習は将来を左右するからこっちは!!」
「だから何だよ!」
「和臣に負担にならないように考えるのは当たり前だろ!?」
お互いに熱くなってしまって、売り言葉に買い言葉でどんどん声が大きくなっていく。
こんなに言い合ったのも初めてだ。
「俺だって自分のことは自分でコントロールくらいできる!」
「でも、和臣は集中すると周りの雑音でも煩わしく感じるじゃないか!」
「そうだけど、本当にそうなら自分の家に帰ってるよ!」
「だったら帰ればいいじゃないか!」
その時、自分の心の中にある糸が切れたような気がした。
「でも、俺は陽斗の家に来てるじゃないか!!」
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