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■■■■■■(終)

1-6  新しい孤児院の仲間が増えたからといって、今宵の晩餐は特別豪勢になることはなく、スープにパンと水といった、極めて質素なものであった。子供たちの健康を考えて野菜や適度なタンパク質、そうして適切な味付けが施されているので味気ないことはないのだが、成長期の少年少女らにとっては何とも物足りないものである。  食事のおかわりをせがむ者もいるが、それは小言を述べる不満程度に終わっており、皆の食事量の均等が崩れることを本気で望んでいるわけではない。  さすがにクリスマスや誕生日などの記念日になれば、甘味や菓子類のひとつでも用意してあげるのが優しさなのであるが、テルがジョンに云った通り、孤児院の資金はそこまで裕福なものではなく、いざという時の――例えば流行病や大災害などに備えて――倹約の方針が推奨される。  さすがに施設の子供たちの将来を考慮して、勉学に関するものは成る可く安くて上等な物や、これまでテル自身が独自に培って来た知識を有して一人で食っていける程度には、教え込むことが可能なのであるが、彼は別に何しも無報酬で、そもそも教会を孤児院に回想したわけではない。  悪魔は契約を交わした以上、対価を要求するもの。  安寧とまではいかないが、一定数安定した生活を送りたいと未来を羨望する者において、衣食住だけではなく、将来を見据えて教育さえ施してくれるのは最良とは云わずとも最優の施設だ。  だからというわけではないのだが、少し物足りない食事に欲をむき出しにしたり、育った環境が劣悪であるがゆえ、ここに来る前の盗みなどの習慣と習性が継続している者はいなかった。どうやら人間……必要に迫られなければやる必要のないリスクを犯すことがないのだが、逆を云えば必要とされれば何だってやる生き物であるとテルは呆れと共にそう思うのだ。  こちらは必要な物資を我欲を満たされる分だけ満たしている慎ましい生活を送っているのに何とも強欲で欲深いものなのだろうか……と思いながら、テルは書斎ではなく、その室内の奥にある寝室で、昼間、勉強を教えると約束した少年を俯瞰するのである。  少年が少しでも冷静な思考であれば、テルが睥睨するその眼は見下すとも憐憫とも云えない実に傲慢なものであるのだが、これから先の『期待』に対して、緊張と興奮で余裕がないのか決して気付くことはないだろう。  ……やがて、この孤児院から成人するまで自覚することはないだろう。 「さあ、そんなに緊張しないで。この間、先生が教えた通りにやれば良いのだから」  テルは柔和な笑みを浮かべながら、昂ぶった劣情を更に煽るように云う。『一度受けた授業内容を彷彿』とさせる発言は、成熟した大人と比較して幼稚で未熟な子供にとっては非常に刺激が強い。  テルは唇に人差し指を当てながら、少年の下腹部を観察する。夜になるまで悶々と悩み、そうして過去を思い出される言葉が引き金だったのか、パンツの中央は膨らむだけではなく濡れてさえいた。  テルは舌舐めずりをしながら、少年の両脚を広げて、至近距離で観察し布越しで一番敏感な先端を刺激するのである。亀頭ではなく尿道を擦りあげる指の動きは俄に円を描いているだけではなく、繊細さが必要とされる非常に微弱な力加減が加えられていた。  少年が布越しに弱点を責められる中、ビクンと肉体が仰け反り、息も荒くなっていく。亀頭の中心をやんわりと苛める行為だけではなく、竿の付け根に片手の手の平が掬うように触れ、遂に耐えきれなくなったのか、腰を跳ね上げる……男として本能的な突き上げる行動を見せたのであった。 「もうこんなになってる。いけない子だけどよくこの時間まで我慢出来たね」  テルはそう云いながら、少年の履き物を下着ごと脱がした。そこにあるのは大人になりきれていない未発達で成長途中の男根であり、透明な先走りが溢れ出していた。 「良い子のきみには先生が直々にご褒美をあげよう。豪華な食事や衣類はあげられないけど、不甲斐ない私にそれぐらいのことはさせておくれ」 「ご、ごほうび……?」  この少年だけではなく、百年ほどに渡って孤児院を仕切っているテルであるが、青姦というべきか、人目と人気のない場所で無理矢理に行為が為されたことがある。それからその後、その姿を見ていた少年らが複数押しかけてきて、大変な目に遭ったことは云うまでもなかった。  ……そもそもここは、少年少女の溜まり場で、思春期の子供たちはそういった欲を発散できる場所も機会も少ない。  少数だが幼い娼婦や男娼の流れ者として行き着いた子らが同年代の子供に性行為を行い妊娠や痴情のもつれ……というより爛れといった有り様となり混乱を来したのだが、それは春をひさいでいた子供らが悪いのではなく、そういった環境に堕とされた境遇が悪い。  『あの事件』同様、孤児らの性におけるトラブルはテル特有の異能で隠し通し、記憶している者は少ないだろう。もしも孤児院で堕胎などの問題があったと露見すれば、意味深な目で見られるだけではなく、最悪、大人であるテルが子供たちを喰い物にしていると看做されてしまうのだ。  まあ……現状、喰い物ではなくもっと酷く最も残酷な餌食を行っていることは確かだが――とテルは独白しながら、潤滑剤としてローションを取り出す。透明色のそれはテルの利き手の大量に掛けられると同時に、器用にもう片方の片腕でベッドに座った少年を両膝に座るように云って、背中に腕を回すのであった。 「せんせい……なにを、何をするつもりなの?」 「そう怯えた顔をしない。私はね、別に苦しめたいってわけじゃないんだ。きみが最初、白い物が出たと泣き出しそうな顔で来たように、ちゃんとした性教育の指導をしているだけなのだからね?」  そう、これがそもそもの始まりだ。  正確にはこの少年が――ではなく――性に関する混乱が生じてから、正しい知識を教えるのも役目のひとつだと思い、世話をしていたに過ぎない。  少女には初潮を、 少年には射精を。  しかし、その行為はテルが■■■■■■という悪魔である以上、教育から逸脱した行為になっていってしまった。  彼は生まれもっての性癖なのか成人した男性には一切の興味はなかったが、子供と大人のあやふやで明確な境界線が付けられない時期頃の……丁度、十五歳程度の年齢の少年にのみ興味を抱いていたのだ。  蜘蛛の巣を引っかけた覚えはないが、勝手に雁字搦めになり、少年が性を拗らせて懊悩と憔悴していく姿に異様な喜びを抱いたのは云う間でもない。  少年に毒牙を向け、大人は歯牙にもかけない徹底っぷりは残忍過ぎるものであった。  この少年もここから出たら、その先の人生において、どのような苦悩が待ち構えているのだろう?  ローションをたっぷりと垂れ流した手の平を少年の亀頭に宛がい擦ると同時に、残忍かつ冷酷に口角を上げるのだが、気が付かれることはなかった。 「先生……っ、せんせいこれって!」 「気持ち良い? こうしてね、先っぽを手の平で丸めるように撫でてあげると、凄く気持ち良いんだ」  でもね……。  テルは自身の胸元に顔を擦り付けて恍惚の表情を浮かべる相手の両腕を、抵抗されないように強引に掴みながら、利き腕の動きを一切止めない。止めてくれない。 「オトコノコはね、竿をちゃあんと刺激してあげないと出るものも出ないの、知ってた? 今日のご褒美はきみがオンナノコになることだよ」  嬌声が聞こえる。  未だ男に至らずとも男性としてのプライドはあるのか、好きなように、そうして文字通り手の平で踊らされるのは我慢ならないらしい。  しかし、そんな矜持にさえ至らない意地としかいえない維持にならないいじらしい態度は徐々に速く、そうして巧妙になっていくテルの手の動きでアッサリと崩れ、簡単にも崩壊した。  そう……女性が絶頂に至るようにこの少年も、腰を激しく突き出して降参そのものである嬌声を出したのだ。  余程射精なしの刺激は気持ちが良かったのか、全身をビクビクと痙攣させ、パクパクと口を動かしている。通常ならここでテルは優しく介抱したかもしれないが、少年が気をヤッている内に次の準備に入るのである。  半ば横抱きになる形で少年を自身の腕の中に抱いていたのだが、テルは少年を寝かしつけ、未だピンと張り詰めた下腹部を眺める。  朦朧とした意識が徐々に鮮明になってきたのか、彼にとってはテルが何時の間にか上着の裾を持ち上げるように咥え、大人の男根を見せて、そうして自身の後孔を弄りながら馬乗りになっていることに驚く。  先生……と不安げそうな表情で何をされるのか不安と困惑が隠せないのか、その幼い顔には恐怖さえあった。 「そう怖い、怯えた顔をしなくても良いんだよ。これは授業なのだから、安心して先生に全てを任せてご覧。オンナノコのご褒美は終わったのだから、甘いお菓子の後はちゃんとした授業をしなくちゃ、ね?」 「……でも」 「刺激が強すぎたのかな? 安心おし。次はオトコノコになれる授業なんだから」  これが悪魔の本懐である。  後ろを軽く解した悪魔は辛うじて本性と本懐を隠して、ゆっくりと腰を降ろしていく。少年はこれまでに感じたことのない圧迫感と温かさ、そうして吸い込まれるような感覚に「お゛っ」と下品な声を出した。蟻『地獄』のように一度入ればもう戻れない感覚と快感を味わった少年は今、強烈な体験をしていることだろう。  テルはそれほどの大男というわけではないのだが、やはり子供と比べると体格差が生じる。その優位性に合わさって、未発達な少年の可愛らしいものと、立派な大人の後孔による締め付けは如何程のものだろうか。  テルはそれほど性的な遊戯に関して熟練した手練手管があるわけではないのだが、男性特有のメモリーとして「最後は最初の女性と添い遂げたい」といった俗諺のように、これから先、忘れられない傷跡のような思い出になることだろう。テルよりも技術的、そうして優秀な締め付けを持つ女性や男性が現れたとしても、男性の性である初のメモリーに勝るものはない。勝てるものがない。  テルは嘲笑い冷せら笑いながら、ゆっくりと上下に腰を動かしていく。散々亀頭をローションで苛められた少年のものは、それほど広くない後孔の中であってもスムーズに動いていく。しかしテルは敢えて緩やかにユルユルと動くことに専念しているのだが、それは相手に対して、『焦らし』そのものでしかなかった。  やがて『狙い済ました通り』、ゆっくりとした動作では我慢出来なかったのか、少年はテルの腰を掴んで押し倒す。その動きは突発的なものであったが、阻止しようと思えば幾らでも止めることが出来たのであるが、この悪魔は人間に押し倒される屈辱に甘んじるのであった。 「先生が、悪いんですよ……」  少年は俯きながら、亀頭だけではなく初めて刺激される竿の感覚と、内部から迫り上がってくる欲の体液の上昇に我慢が……いや、本能がそうしろと肉体に命令を出しているので、今更制することなど一切出来ない。  少年はテルの両足を持ちあげ、肉体を押し潰すような形で激しく腰を動かす。思い遣りも遠慮も何もない動きは実に欲に忠実なもので、テルは「やめ……っ」や「んっ!」などと口元を抑えているが、実際のところ何も感じてはいなかった。  それは少年の激し過ぎる動きが早急なものであった為ではなく、幾人もの自分好みの少年を相手にしてきたテルであるが、前立腺を刺激され、たまにじんわりと感じることはあるのだが、息が乱れ、汗を流し、涙を浮かべ、声を荒げ、肉体を捩らせるほど悦びを見出すものではなかった。  精々湯船に浸かっているかのような心地良さがあるだけで、肉体の中を硬くも滑りを有した棒状の物体が前後で動いているだけでしかないのだ。  口元を抑えているのは、哀れにも獣のように……動物のように動いている少年の一生懸命で我を忘れた本能的な痴態を憐憫とそうして優越感たっぷりに嘲弄しているだけでしかない。  その上、強烈な体験をした少年の人生の末期を想像すれば仄暗い楽しみに愉悦を見出してしまう。  悪魔特有の価値観で何とも悪辣なものであるが、「猿のようにがっついて。これだから好みの少年の童貞喰いはやめられない」と揺さぶられる中、思う嗜虐ぷりであった。  少年に肉体が押しつぶされる中、最奥……とはいっても前立腺の痼りと、緩やかなカーブを描く結腸の中途半端な位置で白濁の液体が虚しくも出されただけなのだが、テルは演技として足の指を曲げ、太股を痙攣させながら、如何にも何度も絶頂を迎えた姿を演出するのである。  少年は疲労感と倦怠感……しかし、それ以上の征服感と優越感を強くハッキリと、勘違いであるにも関わらず自覚しながら、湿っぽい水音を立てて、荒い呼気と共にテルの肉体から性器を引き抜く。  テルの後ろの穴からは、少年のモノが出るのに引き摺られて、白い欲が垂れ流しになりシーツを汚したが、一向に構わなかった。  何故ならば……そもそも彼は粗相をした洗い物の始末には慣れているからだ。  オトコノコになれたね――と、男や雄とは云わずに愚弄した少年を褒めちぎる中、テルは少年を抱き締めて、共に眠りに落ちる。  テルは廊下のある壁側に背中を向けて横になっていたのだが、その壁に生じた小さな穴から誰かが、一部始終ではなく事の始まりから終わりである全てを見ていたことに気付くことなく、微睡んだ慢心の最中にいた。   1-7  シミひとつない青空に映えるシーツを取り入れる中、「手伝いましょうか」との声が掛かる。  その人物はついこの間、この孤児院に来たジョンという少年であった。テルは一種の感慨さに打たれながらも、一切荷物を持たせることはなく、「ここでの生活はどうだい?」とにこやかに訊ねるのであった。 「どう……と云われても困りますが……」少年はフードを軽く抓んだ。「獣人が珍しいんでしょうね。可愛いと耳を触られながら、よく云われました。初めての体験です」  過激派エクソシスト・ジョンの云う言葉には嘘偽りはない。  何故なら本当に彼は過保護な対象として見られることは少なく、その代わりに玩弄され珍獣や愛玩動物としか見られなかった人権無き者であったからだ。 「可愛いねえ。うん、確かにキミは可愛いよ。立派に耳が特に素敵だ。尻尾は……不便そうだから要らないかもしれないけど」  テルは見世物としての価値観ではなく、普通に人が日常生活を送る上で尻尾などの要素があれば、一々パンツに穴を開けたり履き物全般に制限が強いられそうだと、単純な心配の入った言葉を出す。彼が悪魔である以上、やはり獣人同様に尻尾があるのだが、その不便さは分かっていた。服だけでなく、下着さえも制限され、しかも羽がある以上、背中の開いた服を選ばなくてはならない。それゆえ、悪魔にもよるが尻尾などを隠す傾向にあった。 「確かに尻尾は不便そのものですね。引っ張られると痛そうだし、扉なんかに挟んでしまいそう。それに俺はイヌ科の獣人なんで感情なんかがモロに出てしまう。それはいけない。非常に不味い」  猫は警戒すると尾を膨らみ立たせ、犬になると嬉しさで左右に動く。  確かに表情以外にも感情が露骨に露出し露わになるのは、好ましくないものだ。しかも殊にジョンは、悪魔退治をしに来たエクソシストである。ポーカーフェイスとまではいかずとも隠密諜報活動の最中は、成る可く己自身を隠した方が良いだろう。 「戸惑いもあるだろうけど、みんなに受け入れられて何よりだよ」テルはそう云いながらシーツだけではなく様々な洗い物の入った籠を持ち上げる。「だけど、何かあったら云うように。トラブルは速めに解消した方が良いんだ」 「トラブル……」  ジョンは小声で呟きながら、テルを見る。悪魔疑惑が公的に何度も疑われている彼であるが、その言葉はいやに真実味のあるもののように思われた。 「では先生、そのトラブルを解消するために俺に何か出来ることがあったら、云って下さい」 「子供のうちはよく遊んでおくべきだよ。大人になると、『つまらなく』なるからさ」  テルは昨晩の少年の狂態を思い出しながら、半ば唾棄するように云う。子供にしか興味の持てない悪魔であるが、それは経験と知識に乏しい人間が隘路に彷徨い、路傍で徐々に腐りながら朽ち果てる様が面白いからでしかなかった。成人するとその傾向は少なくなる。人生を狂わせることに楽しみを見出している■■■■■■にとって、抑制の効く生物は興味の対象外であった。 「でも……世話になる以上、俺は先生に何かしたいです」 「非常に嬉しい言葉だね……あんまり遠慮し過ぎると返って失礼になるのかな。それじゃ、一緒に洗濯物の片付けでもしようか?」  そのあとに一緒にお茶でもとテルは、ジョンの頭を撫でながら云う。「犬じゃないんですから」と彼は云いながらも、決してその手を払うことはなかった。  早々にしてテルに密着することに成功したジョンは、ティータイムに入れるかどうかは別として、頭の中で理性は冷徹に……そうして悪魔に対して本能的な昂ぶり感情を巧妙に隠すのである。本当に尻尾がなくて良かったと捕食者特有の思考になりながら、洗濯物を片付ける最中、適度に談笑しては相槌を打ち、会話をする。  そうして、獲物を絡め取る蜘蛛の巣の本拠地である伏魔殿の最深部である書斎奥の寝室にようやくやっと辿り着くことが出来た。 「ベッドのシーツの片付けはね、地味に大変なんだ」  テルは枕類を退けながらそう云い、ジョンに寝具類の用意を手伝って貰えるように云う。確かに普通サイズのベッドメイキングでも、体力はそれほど必要とされないが一手間のいる作業は大変と云うより面倒の一言に尽きるだろう。 「そこを……うん、そう持って引っ張って……意外と手際が良いね」 「先生の方こそ、『慣れ』ですかね? 俺の手伝いがいらないほど巧いように見えました」 「そうだね、『沢山の少年少女の子供を相手』にしているからかな。もう、職人技といっても良いかもしれない」  普通に聞けば、特に問題のないように思われるが、その会話内容には異様な含みがあった。そうして異質なのは双方、腹黒さを抱きながらも共通の意味深さを持ちながらも、互いに気付いていないと思っている点である。  ジョンは「疲れた」と述べ背伸びをするテルの背中を眺めながら、服の内部に隠していた悪魔専門の拘束具を取り出す。その商売道具は一見、何の変哲もない短い紐であるが悪魔が触れただけで、縛り付けるのに充分な効果を発揮するのだ。  ……とはいっても、あまりにも強大過ぎる強さを持つ悪魔には通じないものである。正直なところ、拘束どころか足止め、そうして一瞬の硬直さえも発生しない単なる紐に成り下がるのであった。 「あ、先生……肩に糸屑が付いていますよ」  ジョンはそれらしい言葉を述べ、今まさに背伸びをした際に発見した風な態度を装って見せる。糸をこれから外すのではなく付けるという皮肉さに苦笑を禁じ得ないが、目的を達成するためには致し方ないことである。  自分で取る取らないの言葉をジョンは待たずして、自ら積極的に近寄り人差し指と親指以外の握り拳状になった手の平の中に拘束具を隠して接近……いや、急接近し件の道具を服ではなく皮膚に直接触れさせた。ジョンは糸が通じなかった場合の第二の手段を算段していたのだが、そうする必要はなかった。 「――――」  見開かれる目蓋。食い縛る口。  テルは――いや、■■■■■■は実績と功績が己の特異性である『秘匿』と『隠密』により、あまり認知されていないが上位悪魔の十二番目に座する存在である。  その異常性は主に『己の存在を書物などに記さない』ことと、貴族などといった『裕福層』にしか存在が口に出来ないといった徹底的なものである。  『大公爵』であるアスタロトが警告として思わずテルの本名を云い掛けた時、言葉を遮って制止の声を出したのは、そういった意味合いがあったからである。  テルは義眼を転ばせながら、自身の背後に密着するような形でいるジョンを見遣る。もしもその目が義眼ではなく本物の両目であったならば、形相を以て睨み付けていたことであろう。  身体の自由が効かない中、後ろから引っ張られ、臥所の中にジョンとテルの二人諸共が横たわる。背中から抱き締められる形となった悪魔は自身の影を眺めながら、使い魔である黒の未亡人を呼び出そうとするのだが、歯を力強く食い縛った時点で、更に拘束の度合いが強まったのか、口すら動くことが出来ない不自由な状態でいた。 「そう、あんまり身体を傷付けない」  ……しかし、相手からは右から左、もしくは道具、さながらマネキンなどの人形を自由に動かせるのか血が出ても構わないほど唇を噛んでいるのに、容易くその口元が開かれ咥内に指が入る。どうやらこの拘束具は、硬直ではなく正確には麻痺に似た作用があるらしい。もしくは、脱力かもしれないが……。 「先生、ねえ先生……俺はこの時をどれほど待ち望んだのか、あなたは知りもしないでしょうね」  咽喉奥に指が入る。えづくように肉体が本能的な動きをしたことから、更に任意で動けなくなったことを知る。  この指を噛み千切ってやろうかとテルが思う中、まるでその意思を悟ったかのように咥内を犯していた指が引き抜かれた。  思惑通りにならないが思うようにままならない状況、舌打ちしたい不快な気分になる前に自分を背後から抱き締めているジョンが、正しく待てができない犬のように、非常に荒い呼吸をしていることに気が付いた。  酸欠不足でも首を絞められるか、水に落ちたわけでもないのに非常に速い呼気。テルにとってそれは非常に覚えのあるものであり、臀部辺りに当てられた硬質なものと相まってぎょっとしたのは云うまでもない。 「貴様――小僧……いや、お前は……」 「おや、もう喋れるのか。さすがは『ミシャンドラ』。実力は並みでも十二の席に座れるだけのことはある」 「貴様、何故私の本名を……」 「ああ、それですか。俺はこれでも数え切れないくらい沢山の悪魔狩りをしていました。それなり以上の金は持っているんだ。しかも娯楽に興じたり、賭博に没したせず、仕事道具にしか金を使わない。必用最低限の生活費しか使っていないから、金ぐらい溜まる。書くことは出来ずとも、云うことは可能」  無論、こうなってしまったのは先生の所為なんですがねとジョンは云いながら、顎を掴んで、無理矢理後ろ向きにさせ唇を奪うのである。  ■■■■■■は弱々しい力で抵抗するのだが、硬直・麻痺・脱力の三つの効力を有した道具が事前に使用されており、獲物を容易く切り裂けるような鋭い爪を出す肉体変化しか出来なかった。変化というより、元の姿に肉体の一部が戻したのだが、ナイフのような五指十本のナイフがあったとしても、動かさなければ意味がない。 「先生、覚えていますか? あのとき、ここでこうしてくれましたね」  しつこく……執拗に思うが儘、舌を嬲られた後、銀色の糸を引かせた後に、ジョンは云う。問いを受けた彼としては『心当たり』があり過ぎたので、質問の意味が分からなかった。その表情でジョンは察したのか、「俺ですよ俺。貴方の中で特別お気に入りだった、あの俺です」と告げる。 「……行方不明になっていたフレベンデルか!」  かつてこの孤児院では堕胎事件の後に、もうひとつの事件があった。  それはジョン――フレベンデル――両親から獣人という理由ではなく、浮気などの不義不倫で捨てられた彼ではあるが、親が子供に最初に贈るプレゼントとして「防ぎ得る死」の意味を唯一有した愛情のある命名を受けていた。  言霊の意味が作用しているのか不明だが、過激派として働く中……いや、それ以前に大勢の孤児が性的に患って発狂する中、フレベンデルには通じなかった。 「先生、俺は凄く寂しかったんですよ。貴方に歪められて、相手にして貰うべく人攫いになった男のように、会いたくて溜まらなかった」 「はっ! 生憎、『大人には興味』がない」 「そうつれないことを云わないでくださいよ。何のために俺がエクソシストになったのか、分からないんですか。人攫いの事件があったぐらいですからね、忘却の作用……いや、記憶の秘匿化か……貴方、人々の意識から自分自身を隠しましたね」  貴族の間でしか噂されない存在。  そもそも、この放牧とした田舎町では小金持ちの類いはいても大金持ちとなると、その実態は怪しい。  ■■■■■■が、聖歌なき賛美歌の信仰なき教会に再び戻って来たのか、その意味合いは不明だが、恐らく知っていたのだろう。この町は裕福なところではないことを。 「ハハッ、それにしても貴方を求めて探していただけなのに過激派のエクソシストなんて云われてしまうなんて。先生が俺のしゃぶってくれた時の快楽は、度し難いほどに魅力的だったようだ」 「私を放せクソ野郎。そこまで歪んでいるのは愉悦だが、いくら子供じみた外見でも大人であれば興が醒め削がれる。お前は私の中でかつてお気に入りだった、子供だ。クソ童貞め、悪魔退治になんぞなりやがって」 「知ってますよ。好きなんでしょう、未熟な子供が。一生懸命腰を振る童貞が。昨晩も狂態を演じる子供を嗜虐的に見ていたぐらいですから、今でもそうしていらっしゃると知って安心しました」  見られていたのか……と、彼は思った。恐らくドアからではなく、古びた建物であるがゆえ、覗き穴のようになったひび割れから眺めていたのだろう。さすがにドアからの視線は、物理的な実力が乏しい■■■■■■とは云えども察知する。 「……それと童貞なんかだと云われましたがね先生、俺が人攫いと人身売買後、本当にそれだけだと本気で思っているんですか?」 「……やめろ……」  察しが良いと云うより危機感が鋭敏に発達した■■■■■■にとってこれから先、何が行われるのか容易く理解できた。  彼は懸命に影の中にいる黒い未亡人を呼び出そうと必死になっているのだが、影の出入り口が開かれる前に、蠢く影を認識したフレベンデルの投擲したナイフにより、救済の求めなど無に帰した。刃物にはどのような効果効力があるのかその詳細は分からないが、殺傷能力こそないものの、文字通り黒い未亡人が蜘蛛の子を散らすように大量の小さい個体となって散らばっていく感覚を自認した。未亡人が■■■■■■の魔力を大量に織り交ぜた独自の個体である以上、ある程度感覚が繋がっているのだ。  崖っぷちの状況ではなく、すでに落とされた状況の中、フレベンデルは待望の存在とこうしてまぐわうことが出来ることに興奮が抑えきれず、既に射精してしまった。しかし、性的な興奮は醒めることなく、下着の中が粘りのある不快な液体で汚れようとも、少しも気にならない。  フレベンデルは、身体の自由がほぼ効かなくなった彼の身体を好きなように愛撫する。まずはわざとゆったりとした速度でジワジワと嬲るように衣服を半脱ぎにさせていくのだが、衣類を脱がされる本人にとってはゆっくりと浸食する恐怖でしかない。  シャツの釦を全て外されながらも脱がせることなく、直接両胸を弄られるのであった。彼はこれまで子供たちの人生を翻弄していく中で触れられるだけではなく吸われたこともあるのだが、感じたことがないはずの部位に指先が当たっただけで自慰の絶頂よりも強烈な快感が襲う。  咥内に指を入れられた時、焦燥で認識出来なかったのか薬物らしきものを吞まされたのではないかと勘ぐるが、実際は違う。■■■■■■は生まれて初めて味わう恐怖である未知と、何をされるのか知っている既知の双方が渾然一体とし、全ての感覚が非常に敏感になっていたのだ。  コリコリと摘まみ器用に両胸を両指で擦られる中、下腹部の内部に熱らしきものが生じていることに気付く。これまでは湯浴みの程度の快感しか覚えなかったというのに、後ろの穴がひくつき、欲しがるのはどうしてか。  嬌声を出しながら前後に腰をカクカクと動かす本能的な動きはフレベンデルの陰部を小刻みに刺激している一種の道具だ。相手を悦ばせるつもりは一切ないのに、彼の男根は更に硬く、そうして強く張り詰めた怒張。 「ああ、悪夢から醒めた夢みたいだ……」  恍惚とした声でそう云い、フレベンデルはとうとう下の衣類に手を伸ばした。胸の刺激だけでだらしなく声を出し、息を乱された彼はカチャカチャと音を立てて外されるベルトの音にハッとしたように反応する。スラックスは太股辺りまで中途半端に脱がされたことから、どうやら着衣したままの行為を好んでいるらしかった。 「悪趣味な奴め!」 「先生の童貞食いほどではないですよ。それにしてもさっきまで鳴いて喘いで悦んでいたのに罵倒するとは余裕ですね。昨晩のようにオンナノコになってみますか?」  フレベンデルはそう云い、ベッド近くの棚からローションを取り出した。一部始終ではなく孤児院の少年と一緒に寝室ではなく、書斎に入るところから見ていたので、どこに何が、どのような遊戯じみた道具があるのか把握済みである。無論……潤滑油以外の道具も短い時間で不在の時間を狙い、どこに何があるのかつぶさに知っているのだ。 「やめろ、やめろやめろ! 私が悪かった!」  ■■■■■■は抵抗しながら云うが、捩るよりも多少自由の効いた行動は出来ても、軽く身体を揺らす程度のものにしかなっていない。  半勃ちになった下着にたっぷりのローションが惜しげも無くかけられ、粗相をしでかした女児のように漏らしているように見える。  容器の中身を全て使い果たしたフレベンデルはゴミを捨てるような感覚で、容れ物を投げ出した。そうして下着だけではなく、洗い立てのシーツさえもびしょ濡れにさせ、下着の上からローションを馴染ませるように手を動かすのだ。竿を刺激せず先端ばかり触れる手付きは通常なら微弱な快感であるが、相手にとって無意識のうちに緩やかに大股を広げさせる強烈なものでしかない。  もう肉体の動きを鈍らせる商売道具の効果は半分ほど切れかかり、逃げようと思えば逃げ出せる段階になっているのだが、別の理由で脱力した彼は自分で立つことが出来ないほど、その症状は悪化していた。自身のものがピンと張り詰め、下着にローションが完全に浸った頃にはフレベンデルにもたれ掛かってしまっている。 「ねえ、先生……ローションガーゼって知ってます? ここにはガーゼはありませんけど、もうこれだけパンツがビシャビシャなんだ。充分オンナノコ……いいや、違う。貴方の場合は雌になれますよ」 「? あ?」 「言葉も聞こえませんか? そんなに気持ちよかったのかな、嬉しいな……もっと、もっともっとご奉仕させてくださいね」  フレベンデルはそう云い、大股に開かれた脚部では下着が脱がし難いと思ったのか、それとも彼の悦ぶ姿を早く見たかったのか、脱がすのではなく、ヌルヌルになった布を引き剥がした。容易く引き剥がされた下着を亀頭に宛がわれ左右に動き出すのであるが、動きが片方に完全に傾く前から、悪魔であるという矜持を忘れ下品な声を出してしまうほど、強い快感が生じる。最早、少しの動作で快楽責めといっても過言ではない左右の動きによって得られる反応は雌そのものである。 「も――もう、やめ――おっ、お、おぉお! んおぉ゛!」  射精したくても竿を一切刺激されず、玉はその準備に備えて上がっているのに、何時まで経ってもその機会は来ない。一秒単位、数ミリの動きだけで意識が飛ぶ。布の動きは激しくなっていくのだが、通常ならいくら柔らかい布でも痛みを感じてもおかしくない敏感な部分を過剰に擦られても、気持ち良いだけで萎えることはない。 「だ、出したい! 出し――お゛んっ――!」 「出す? 何を? アレなら問題なく出ますよ」  何が出るのか訊ねたいのは山々であったが、声の全てが喘ぎ声に変換される。左右に動く布が、グッと強く下の方に押さえつけられ今度は密着した状態で擦られていくうちに、別のものが迫り上がってくることに気付いた。  ■■■■■■は点滅する視界の中、擦られる動きを止めようと手を伸ばすのだが、緩慢な動作である。元の姿に戻ろうと長く伸びた爪先が触れるか触れないかのその瞬間に、白濁ではなく勢い良く放たれたのは透明な液体であった。  所謂、潮吹きである。 「――――!」  彼の尿道から潮が噴出した瞬間、痙攣するように身体がビクビクと小刻みに動く。何をしたのか……そうして何をされたのか理解できない中、喘ぐ言葉は十二席に腰掛ける上位悪魔のものとは思えないものだ。  フレベンデルは潮を噴いたことに満足して舌舐めずりをする中、彼の腰を掴んでうつ伏せの姿勢にさせる。もう完璧に拘束具の効果は切れているだろうが、もうこの状態になると、たとえ逃げ出しても子供でも捕まえることが出来るだろう。  フレベンデルはシーツに染みこみきれなかったローションを指先で掬い取り、後孔を広げるように指で左右に押しのける。潮を噴いたのが恐怖同様未知の状態で放心しているのか、抵抗もなかったが、反応もなかった。それを良いことに未熟で未発達な子供のモノしか呑み込んでいなかった狭く窮屈な後ろ穴を指でドンドン広げていく内に、気をやった意識を取り戻したのか、■■■■■■はハッとしたように顔をあげる。 「や……やめろ、やめなさい……わたしは、こどもでないと……」 「先生も授業と称して子供たちに教えているんでしょう。教師は一生涯教師とか云われていますし、かつて生徒だった俺にも教鞭を執ってくださいよ」  止めろとか、嫌だだとか否定の言葉が弱々しく聞こえる中、フレベンデルは全てを無視して、大人サイズのモノが入れる程度の大きさに穴を広げることに成功した。  指を放してピタリと亀頭を入口に当てるとそれだけでもう恐ろしいのか、泥を這うようにシーツを引き寄せて這うような姿を見せるのである。  しかし無情にもフレベンデルは荒い呼気と紅潮した頬を自覚しながら、ゆっくりと中に張り詰めたものを入れていくのである。 「はあ……狭い、気持ち良い。引きずり込まれるようだ。もしかして、口でしてくれてたあの時のように自分から根本まで咥えて下さっているのですか?」 「――っ!」  返事はない。  それはそうだろう。  何せこれまで、硬さも長さも、そうして質量も比べものにならない大人のモノが初めて入っているのだから。彼は逃げる余裕を忘れ、四つん這いの姿勢になって背中を弓なりに仰け反らせる。その体勢は身体の内部を突き進む異物をどうにかして出そうとする動きであったが、着衣のままでも腰が掴み易くなっていることに気付いていなかった。 「先生、どうですか半分まで入りましたけど、子供のものとは比べものにならないでしょう。可哀相な子供の観察よりも、絶対にコッチの方が良いに決まっています」 「抜け……抜いて、わたしから、わたしは子供に無理強いなんて……」 「してないでしょうね。そういうことに興味があって、そういった方面を好む子供だけを選んでいた。先生は悪魔ですが、意外と紳士的だ。まあ、単純に騒がれたら面倒だと思ってヤッていなかっただけなんでしょうが……」  ハアッと熱っぽい吐息が出る。  フレベンデルは竿でゴリゴリと執拗に前立腺を刺激する中、未だ暴かれていない秘所に向けて突き進むのだ。最奥を刺激し、完全な雌となった姿を想像するだけで、更に怒張が増していく。それも当然の反応だろう。幼少の頃から劣情を抱いて止まなかった相手に対して自分が雄としての役目を持ち、雌へと堕とすのだから。  ジワジワとフレベンデルの男根が少し進んでは戻り、戻っては進む中、前立腺を刺激する感覚が良かったのか射精しないまま、相手は何度かの絶頂を迎えていた。もう逃げられないことを悟るだけではなく、覚悟と諦めがついたのか、下腹部の雄が根元に完全に入り切る頃には、自慰行為をするように自分のモノを愛撫している。上下に動く手は忙しいものであるが、フレベンデルは確信としてまだ墜ちていないと思うのであった。  フレベンデルは「先生」と呼びかけながら首元に片腕を回し、アームロックを仕掛ける。半ば首絞めに近いソレは実際窒息の効果があるのか、更にナカが締まる。思いも寄らない刺激に一瞬、出しそうになりかけたが寸前のところでどうにか我慢することが出来た。彼としてはどうせ出すなら、一番奥が良かったからである。  フレベンデルは完全な挿入がきまると、腰を本格的に動かし始めた。二、三回のピストンでナカと自らの慰めの効果か、待望の射精をする。本来ならば休憩を挟めるべきではあるが、彼は■■■■■■に何年もの待ったを、他人に攫われたとは云え、仕掛けられていたのだ。記憶消去の異能を恨みながら、■■■■■■が寝室で子供たちに自由を許す中見せている、残虐性のある笑みを浮かべた。 「もっ、も゛、むり……っ、イッた……なんかいもいっだ――ぼ、ぼぐにはむり……っ」 「ギブアップですか、先生?」  繕っていた一人称が崩れるほど余裕がないのか……。  フレベンデルはそう思いながら、腰を限界まで引いて、一度相手に終わりを告げるような安堵感を与える。実際、引き抜かれつつある男根が引き下がる気配にホッとして、意識を軟化させたのだが、これからが――本番だった。  フレベンデルはアームロックを仕掛けたままの腕を自分側へと引き、背後からの首絞めを行った。力の入っておらず脱力して油断した肉体は存外持ち上がり易く、半ば浮くような形になる。そうして息をつく間も暇もないまま、バッグからの姿勢から背面座位の体勢になるだけではなく、自身の重みで抜きかけた雄が勢い良く奥を刺激したのである。 「あああああ!」  悲鳴のような嬌声が聞こえる。  フレベンデルは首筋に噛み付き、離れないように一番奥までシッカリ入った怒張が結腸に到達したことを認識しながら、そう思うのであった。 「先生、先生せんせい、せんせい――!」  首筋を噛んでいた口が離れ、耳元から譫言のように妄執の言葉が囁かれる。孤児院で誘拐事件を起こした出戻りの男のように、何もかもが歪められた彼であるが、それは自業自得の結果でしかない。  手の跡が付いても構わないと云わんばかりの力で両膝の裏を持ち、強引に足を開脚させ、腸壁と前立腺を刺激しながらも単純に前後に動いていたのとは異なる捻るなどの動きが加わった変化球。  フレベンデルは最奥でのみ絶頂を何度も迎えているのだが、獣としての特性が強い彼はそう容易くへばったりしない。この状況を最も望んだ瞬間という興奮剤もあるだろうが、そう易々と簡単に手放すことはないのだ。  例え、全身を痙攣させて傍目にも可哀相な有り様になっても。  例え、男根で一番太い根元が後ろ穴を穿ち引き抜くことが出来ずとも。  例え、相手が身体を大きく仰け反らせ、舌を突き出していても、離れることはない。  ■■■■■■は、右足の指が丸まり、対して左足がピンと伸びる中、自身の男根からは男であることを消失しているかのように、非常に薄い精液が時折、滲み出ている。  後ろ穴の一番奥の刺激は一度云われたように、我を忘れるほど好かったのだ。 「ぼ、ぼぐのせ――せいへぎが、がわ゛るがらあっ!」  いやいやと首を振るように動かしても、フレベンデルは行為を緩め止めるどころか、ノンストップの状態で更に強く捻り込む。膝裏付近の太股を掴む腕を取り外そうとしているが、椅子に腰掛け手摺りに触れているようにしか見えなかった。  分からせるように……理解させるように……上書きさせるように……そうして、誰のものなのか刻み込むように行われる性交――否、後尾は数時間に渡って行われた。  やっと解放された頃には■■■■■■は、息も絶え絶えな様子で突っ伏すことしか出来なかったのだ。  そうして朦朧とした意識の中で思うのは、アスタロトの忠告を聞いた方が良かったと後悔するのと同時に、フレベンデルに対する『とある確信』を抱いたのだ。  疲弊以上に多幸感を感じる中、白く必要以上に粘ついた液体が垂れ、疼くように開発された悦びがひくついているのが分かるが、別の意味で嬉しさの余り思わず笑ってしまった。 1-8 「良かったのかい、ジョン。あれは支配型のキミにとって唯一の番の相手じゃなかったのか」 「……好きな人は自分で選びたいからな」  ジョンがエクソシストとして仕事を受ける前の数十日前の出来事。  悪魔使いである友人の家に商売道具を作って貰い、道具の引き渡し後、その友人が前々から気になっていたことを述べるのである。  この友人は未だハイスクールに通う身の上であるにも関わらず、道具の作成は一流で将来有望の人物だ。  ……いや、正確にはどういった条件で使い魔にすることが出来たのか不明だが、悪魔の中で序列三位の実力を持つアスタロトの指導が関係しているのかもしれなかった。無論、友人は本物の天才であることには違いないが。  悪魔と契約し使役する以上、対価を支払わなくてはいけないのだが、友人いわく「対価は先祖との約束」とのことらしいが、詳しい話はよく分からない。  友人もその意図について訊ねたことがあるらしいのだが、彼本人にも意図が分かりかねるとのことだった。しかし――ただ一言云えるのは、アスタロトは人のこころが、同胞の悪魔であったとしても理解できないという点であり、その部分が「先祖との約束」の面に繋がっているのではないかとのことであった。 「キミにとって結婚相手が強制的に約束されている政略結婚みたいなのは確かに嫌なのだろうけど、断った以上、これから先一生涯誰とも寄り添うことなく独り身のままだぞ?」 「それは相手も同じことだろう」 「いいや、違うね。ジョンは支配型だが、相手は凡庸型。凡庸型は獣人ならば誰とでも結ばれる。同じとは云えない」  獣型の番相手には幾つかの種類があった。支配型はたった一人の獣人としか結ばれない。残りにもう二種類あるのだが、それが先程説明がなされた幅広い範囲を持つ凡庸型と、そうして普通の人間と結ばれる変則型である  獣人の中で一番強烈な力を持っているのは支配型だと思われがちだが、実際は変則型の方が支配能力が強い。人間同士の間柄であるにも関わらず獣人である彼のように、人と交わりを持つだけでなく支配型を逆に取り込むことが出来るのであった。基本的に、世界でたった一人の相手しか結ばれない支配型は救いとも云える存在であるが、変則側は自身の性範囲を知って非常に傲慢で悪質な傾向にあった。  友人は「両親が仲違いするキッカケと、捨てられた原因にもなった変則型を人生のパートナーとして選ぶことは絶対にないだろうな」と思うのである。 「ところで、相手は自分で選びたいってことだろうけど、ジョンには好きな相手でもいるの?」 「いるよ。昔いた孤児院の先生だ」  先生への初恋だなんて失恋の王道じゃないか。  友人はそう云うのだが、決して笑うことはしなかった。何故なら『先生』について語る彼の表情が実に幸せに満ちたものだからである。  エクソシストとして獲物を狩り、殺伐とした生業を世界とした人間が幸福に満ちた完爾なんぞ中々見れるものではないだろう。 「へえ……随分ご執心だね。ジョンがそこまで一途に思うぐらいだ。幾らかお歳を召されているだろうけど、素敵な人なんだろうな」 「人……アレは果たして本当に人なんだろうか……」 「どういうことだい?」 「その先生は、百年以上前から聖歌と信仰なき教会を改装して孤児院を作ったそうだ」  ぴくり。  今まで会話に一切参加せず、主人の傍から少し離れた位置にいたアスタロトが片耳を動かした。微弱な反応を二人に悟られることはなかったが、念のため平静を装うように両目を閉ざすのである。 「百年以上前から孤児院を経営しているそうだから、きっと人外の生き物だ」 「百年も……最悪、その先生はキミのとって狩るべきの悪魔なんじゃないのかい」 「それは光栄だね」  ジョンは――いや――フレベンデルは異様で異質な執着心を有したドス黒く渦巻いた感情を隠すことなく、喜々として述べる。  これまで見たことのないフレベンデルの表情の悍ましさとその感情の思いの丈と重たさに、友人が息を吞んで顔を青くした。 「その可能性があると思って、エクソシストに俺はなったんだ。もしも、本当に先生が悪魔なら、これまで俺の命がけの努力が結ばれる」 「…………きみは、過激派の一派じゃなかったのかい?」 「過激派? 俺が今まで一度もそう名乗ったことも自認したこともない。ただ――」フレベンデルは心底嫌そうな表情をする。「――依頼先の悪魔が先生じゃないだけだ」 「へ……へぇ……」 「本当に過激派なら悪魔使いであるお前のところにはいかないし、殺そうとしているだろう。単純に考えれば分かることだ」  ただ身勝手な八つ当たりをしているだけだと云う。  しかしその勝手に期待して、外れだと落胆し、これまで悪魔狩りの任務の中で人間に対して友好的な悪魔がいただろうに、一方的に殺戮したとなると、癇癪を起こした子供どころの話ではない。  初めて知った友人の異質さに怖気と寒気を覚えながら、「そういえば」と表情と感情が沈静化したフレベンデルが、アスタロトを眺めながら云う。 「そこにいる悪魔は、あのアスタロトなんだよな?」 「如何にも」  話を振られた悪魔は瞑想するように閉ざしていた両目を開いて頷く。フレベンデルは何度も友人から道具を作って貰っているが、この男の無表情以外、見たことはない。 「大公爵、大悪魔と云われるアンタだ。聖歌なき信仰神の存在のことは知っているか?」 「情報を寄越せと云うのか。ならば、対価を寄越せ」  悪魔らしい返答にフレベンデルは、恋慕と劣情を重ねて止まない存在が、本当に孤児院の先生ならば、わざわざ危険性が高いエクソシストを続ける必要と、そうして依頼を受け続ける遠回りをしなくて済むので「何が欲しいんだ」とほぼ即答した。 「何が欲しい、か……そうさなぁ、悪魔を狩る行為か、もしくは現時点とこれから先の全財産の剥奪だ」 「ちょっとアスタロト、対価が重すぎるんじゃないのかい!?」  友人が周章てたように云う中、彼はアスタロトが孤児院の先生の正体――悪魔である素顔――を知っているのだと確信した。そうして思うのはこれまでエクソシストとして培ってきた知識を総動員させ、生業ならまだしも全財産の剥奪がどう関係しているのか、考えるのである。 「我が主人よ、妥当な対価だ。アレは貴重な存在でな。そう安々とやれんよ」 「……と云うことは、正体を知っているんだな」 「…………まあ」アスタロトは支払いを要求した時点で自白したのも当然だと思っていたのでアッサリと肯定する。「そうなるな」 「ということは上位か有名な悪魔か」  アスタロトはここになって初めて、自分が失言をしたことに気が付いた。ヒントをあげたのも当然で、もっと複雑で条件がキツイ対価にしておけば良かったと、責任感を感じた。後にフレベンデルがいなくなってから、直々に■■■■■■のところへ赴き、警告を行うことになる。  しかし――真相を明かさず警告だけで済ませたのは、とある理由があった。もしもエクソシストである少年が、対価のひとつである『悪魔狩り』を選んでいれば害はなく、『全財産の剥奪』を選択していれば、出会う可能性が極端に減る。最悪、一生出会えることはないだろう。  悪魔狩りの能力は云わずもがな、剥奪の件は貴族や華族の社交の場でしか噂されない存在である以上、口にする存在は非常に限られている。フレベンデルが孤児という貧しい身の上の時期に記憶消去の術がかけられていることをはじめて会った時から看破している大公爵のアスタロトとしては、全財産の剥奪が望ましいと考えている。孤児の身の上でありながらも記憶している凄まじい執念であるが、無一文になった瞬間、先生の存在を忘れたことすら忘れた状態となるのだから。  果たして、フレベンデルはそのどちらも選ぶことはなかったのであるが、ソレも想定の範囲内である。  好奇心――もしくは向上心の塊である悪魔は仕えることはあっても、従うことはない。どの悪魔であれ常に虎視眈々と上を目指している存在が人間に屈するなど、十二席に属している悪魔として恥であるという矜持から来ていたのであった。  使役と服従は異なる。  現にアスタロトだって使い魔として使役されているが仕事としか捉えておらず、一切私情を挟まない。先祖の件だって、対価を支払われたからそうしているだけでしかない。  もし墜ちたとしても二十数年ほど生きた獣人と、数千年も人間を翻弄し続けた悪魔とでは経験が違う。質が異なる。  最悪……いや最善、新しい狂わせ法が出来たと、煙草と悪魔のように負けたが勝ったと墜ちた瞬間、確信を得て笑うことだろうと思うのであった。  実際、少年に墜とされた■■■■■■であるが、興味の対象を変えただけでしかなく、更に悪辣とした存在になったのだ。

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