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第4話 反発しあう二人?

 多分、三日坊主にもならないうちに剣は俺の秘書なんて辞めるだろうと思っていたが、予想に反してもう十日以上仕事を続けている。  俺はまだ高校生だから親父の会社の経営にはタッチしていない。  だから剣の仕事も『秘書』というより家庭教師に近い。  そんなんで普通のサラリーマンの倍近い給料が貰えるとあって、最初はみんな喜ぶんだけど世の中そんなに甘くない。  親父が面接で選んでくるのはいつもハイスペックな人材ばかりだ。  そしてそういう人たちはやはりプライドもそれなりに高い。だんだん幾つも年下の高校生の下で働いているということに自尊心が傷つけられて来るらしい。  それに自分で言うのもなんだが俺はかなり我儘で、性格もいいとは言えない。  生意気な高校生の相手などしてられないと、今までの秘書は辞めていった。  最長記録は八日間。だから剣は新記録だ。 「……なあ、あんたさ」  俺は苦手な数学の問題を解くのに飽きて、剣に話しかけた。  すると剣は切れ長の目を鋭くさせる。 「あのな、俺には沢口剣っていう名前があるんだけど。何回も言ってるだろ。おまえ馬鹿なのか?」 「うるさいな。……じゃ剣」 「呼び捨てかよ」 「だって剣は俺の部下だろ」 「はあ……ほんと生意気なガキ。……で何だよ? 御曹司」 「そっちこそ御曹司って呼ぶな」 「じゃ、なんて呼べばいい? 信一様か? 坊ちゃまか? それともご主人様とでも呼んでやろうか?」  揶揄うような声音と言葉に俺は顔をしかめた。 「やめろよ。どれも気持ち悪い。仕方ない。呼び捨てでいいよ」 「それはどうも」  にっこり笑う剣。  なんだか負けたみたいで悔しかったけど、俺は話を前に進めることにした。 「……剣はなんでこの仕事、続けてるんだ? いつまで経っても親父の秘書になれることはないぞ。……親父にはリイナさんがいるし」 「何? 心配してくれてんの? かわいいとこあるじゃん」 「そんなんじゃない。自惚れんな。それより質問に答えろよ」  爽やかなイケメンの笑顔が余裕綽々でやっぱり悔しい。 「おまえの親父に泣きつかれたんだよ。『信一は母親を早くに失くしたから甘やかせて育ててしまって我儘いっぱいに成長してしまった。あんなのじゃこの先思いやられる』ってね。だから俺は秘書として、おまえが高校卒業後に会社に入ったとき即戦力になれるようにサポートしていこうってね」 「…………」  俺は唇を尖らせた。  親父の奴、余計な事言いやがって。  確かに俺は甘やかされて育った。それは認める、うん。母親がいない分、父さんは俺をすごく大切にしてくれたし。  ……でも、それもリイナさんと出会うまでの話で、あの女性が秘書になってから父さんは俺のことなんかほったらかしになっちゃった……。  だから俺は剣の言葉にある意味クル物があった。  剣は今までの秘書志望の奴らとは違うのかな? ってね。  でも、そんな俺の淡い期待を打ち砕くように剣が伸びをしながら言葉を続ける。 「ま、ほんとのところはお金が良かったから引き受けたんだけどね。買ったばかりのマンションのローンがきつくてね」  なんだ……結局金かよ。他の奴らと一緒じゃん。  甘い思いを抱いた自分が馬鹿みたいだと失笑し、腹立ちまぎれに言葉を投げ返す。 「分不相応な買い物するからだよ」 「分不相応なんて難しい言葉知ってんじゃん」 「馬鹿にすんなよ。俺は成績はトップテンより下に落ちたことないんだからな」  そう俺は勉強はできる方だ。  一応会社を継ぐ身としては成績が底辺だとシャレになんないし。  ……ただ、数学だけは別で、苦手中の苦手だった。  数学さえなければ俺の成績はトップスリーに入っていると思う。

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