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第8話 日曜日の出来事2
「……$XX***」
男は痛そうな呻き声を上げる。
見れば鼻を押さえた手の間から血がダラダラと零れている。
「あ、悪い」
俺はさすがに謝ったのだが。
「こいつ……! ふざけやがって……!!」
男は鼻血を流しながら俺の着ているパーカーの胸倉をつかんできた。
殴られる!!
俺は来るだろう衝撃に耐えるため、ギュッと目を瞑った。
だが、どれだけ経っても衝撃はやって来なくて、俺のパーカーをつかんていた手も離れていく。
「いてててっ! いてぇ! 離しやがれ!!」
そして代わりに聞こえて来たのは男の悲鳴だった。
……?
俺が恐る恐る目を開けると、そこにはスラリと背の高いイケメンに右腕を捻りあげられている鼻血男の姿が。
「剣!?」
いったいいつの間にこちらの通りにやって来たのか、そこには剣が正義のヒーロー宜しく立っていた。
「この腕、マジで折られたいか?」
静かな、でも冷たい声での恫喝に、相手の男は涙目になって首をぶるぶると横に振っている。
「じゃ、とっとと帰れ」
大人の男の怒気を含んだ声と表情の迫力は凄まじくて、三人組は一目散に逃げて行った。
「……やれやれ。ケガはないか? 信一」
剣が乱れてしまった俺のパーカーを整えてくれながら聞いて来る。
「ない、けど……」
「し、信一、大丈夫か!?」
俺と剣の隣でフリーズ状態だった義がおずおずと声をかけて来た。
剣は義の方を見ると、微かに首を傾げる。
「友達?」
「あ、うん。親友の義」
俺が答えると、剣は義の方を向き言った。
「義くん、信一は我儘だから相手するの大変だろうけど、よろしくね」
「誰が我儘だ!! 勝手なこと言うな」
確かに俺は我儘な自覚はあるけど、他人に指摘されるとやっぱり腹が立つ。
「それが助けてやった相手に言う言葉か?」
「だ、誰も助けてくれなんて言ってない」
そんな不毛な言い争いをしていると、義がポツリと呟く。
「……信一、やっぱりこの人と知り合いだったんだ? さっきは何で嘘ついたんだ?」
「え? あ。えーと」
返答に困る俺。
剣が女に優しい笑顔を見せるのが何となく面白くなくて、ちょっと拗ねたなんて口が裂けても言えない。
そんな俺の事情なんて露とも知らない剣は呆れたように肩を竦めて見せる。
「何? おまえ、我儘で生意気なうえ、嘘つきなの? 全く困った上司だな」
「上司?」
義が怪訝そうな声を出す。
剣は例の意地悪そうな笑顔を浮かべると楽しそうに言葉を放った。
「そう。俺はこの子の部下なんだよ」
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