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第11話 甘く優しい

 部屋へ入り、十分ほど勉強した後、不意に剣が口にした。 「信一、昨日、ゲーセン行ったのか? 九時の門限ちゃんと守ったんだろうな?」 「八時には家へ帰って来てたよ、ってそれより何でゲーセン行ったこと分かったんだ?」  ハイスペックな剣。もしや超能力でもあるのか? などとありえないことを一瞬思ったけど、当たり前だがそんなことはなくて。  剣はテレビの前に置かれた、真新しいキャラクターのぬいぐるみを指さした。 「あれUFOキャッチャーで取ったんだろ。一昨日までなかった」  図星。  俺はUFOキャッチャーが好きで、部屋のあちこちに戦利品が飾ってあるのだが、剣が指さしたのは昨日取ったほやほやだ。 「べ、別にいいだろ? ゲーセンは禁止されてないし」 「別に悪いって行ってないだろ。ただ、こういうのが好きって、やっぱりまだまだ子供で可愛いなって思っただけ」 「子供って言うな。もう十六歳だ」 「全然子供じゃん。ファザコンだしな」 「ファザコンって言うな!!」  断じて俺はファザコンなんかじゃない! 断じて。  キャンキャン噛みついて行く俺に、剣はその綺麗な瞳をフッと和らげる。 「……信一の気持ち、分かるよ。お父さんがレイナさんばかり見ていて寂しいんだろ」 「……っ……」  なんか核心を突かれたような気持ち。でも俺のプライドはそれを認めたくなくて。  言い返そうとしたとき、剣の手が俺の頭に置かれる。そのまま何度か優しく髪を撫でたあと、前髪をすくようにして俺の額を全開にすると――――。  そこへ少しひんやりとした剣の唇が押し付けられた。 「……!?」  時間にして数十秒だと思う。  剣は俺の額にキスをし続け、それからゆっくりと唇が離れていく。  俺が目を真ん丸にして驚いていると、剣は静かに言った。 「これからは俺が信一のこと一番に見てやるから」  紡がれる言葉と一緒に剣が見せた表情は、とてもとても優しいもので。  いつもの意地悪そうな表情じゃない。  昨日彼女に見せていた表情とも違う。  それはホイップクリームとカスタードクリームがたっぷり入ったシュークリームのように甘く優しさだけでできているような表情だった。

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