剣は抱きしめる腕をほんの少し緩めると、俺の目線と自分の目線を合わせる。 　めちゃくちゃ綺麗な瞳が俺を真っ直ぐに見つめて来る。 「だから、信一も俺が寂しいときは慰めて」 　そして、そんな冗談だか本気だか分かんない台詞を口にする。……でも多分、全部剣の冗談というかからかいなのだろう。 　だって俺は知ってるから。剣には彼女がいる。 　寂しいときに慰めて欲しい存在は彼女だろうし、剣が一番に見つめる相手もまた彼女だろうから。 　俺は心のどこかが少し痛んだような気がして、そしてそんな自分が悔しくて、剣をきつく睨み付けた……はずだった。 　だが気づけば目の前に剣のドアップ。 　ピントが合わないくらい至近距離でも綺麗な顔がそこにあり、今度はほっぺに軽く触れる剣の唇。 「っ……だ、だだからっ、さ、ささっきから、なな、ななんなんだよっ！？」 　完全に剣に揶揄われてると分かっていても、俺は不覚にもドキドキしてしまう。 　だって、俺ははっきり言って恋愛経験が皆無で、だから勿論例えおでこやほっぺへのキスでも他人からされるのは初めてで。 　だけど剣はとどめとばかりに言葉を紡ぐ。 「んー……約束の、キス？」 　小首を傾げ、人差し指を唇に当てて。 「……ぅ……」 　剣のモテオーラが半端ない。 　俺は目の前の年上の部下に翻弄され、口をパクパクさせることしかできなかった。