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第15話 恋の行方

   次の日、義は大喜びで俺について来た。 「すいません。よろしくお願いします!」  義が元気よく挨拶すると、剣もそれに応じる。 「こちらこそ。競い合う相手がいた方が勉強もはかどるからね」  親し気な言葉遣い。俺はムッとする。  剣は昨日から俺に対してはずっと敬語バージョンで通している……それも今までのような揶揄うような響きのそれではなく、どこか余所余所しさを感じる口調で。  なんだか俺よりも義の方がずっと剣と親しいように感じられて、やはりモヤモヤ。  同い年だけど多分それなりに恋愛経験があるんだろう義は、勉強の合間にさりげなく剣の趣味や好みについて聞いている。 「剣先生、好きなタイプってどんな人ですか?」 「んー。清潔感のある人かな」 「じゃ、趣味とかは?」 「読書。義くん、それよりシャーペンを動かしてね」  なんて具合にさ。  あー、なんか面白くない。俺はイライラしてシャーペンの芯を何度も折ってしまう。 「信一様? どうかされましたか?」 「別に」  そっぽを向く。  いつもは俺が剣の授業(?)中にこんな態度をとると、身が縮むような叱責が飛んでくるのだが。 「そうですか」  欠片も興味がないような声音で返されてしまった。  一昨日の甘く優しい剣はなんだったんだというくらいの素っ気なさ。  モヤモヤイライラするのを通り越して悲しくなってくる。  どうしてこんな気持ちになるんだろ? ……なんて答えは分かってる。自分に嘘はつけないもん。  俺は剣と義の親し気な様子にモヤモヤし、義に、剣と二人きりの時間をとられたみたいでイライラしてる。  子供っぽい嫉妬。  義が剣と俺の間に入ってきたことで、はっきり形づいてしまった気持ち。  俺は剣が好きなんだ。  いつの間にかとか、どうしてとか、そんなことは分かんない。  厳しくて意地悪で、でも何でか急に優しくなって。  そんな剣が好き。  同性だけど。  剣には彼女がいるけど。  それでも好き。 「……義、ごめん」  口の中で小さく呟くと、義が俺の方を見た。 「あ? なんか言ったか? 信一」 「ううん」  微かに首を横に振りながらも、俺は心の中でもう一度義に謝る。  ごめん、義のこと、心から応援してあげることはできそうにない。  けど、だからと言って義のように、はっきりと剣のこと好きだなんて言えない。  ひっそりと片思いでいることが俺には精いっぱいだから。 「……ほんと臆病だな、俺」  溜息とともに再び小さく呟くと、今度は剣と義、二人がこちらを見た。 「何? 信一」 「何か?」  義と剣が訝し気に訊ねて来る。 「な、なんでもない」  俺はシャーペンを握りしめ、慌ててノートへ向かう。  また芯が折れた……まるで俺の恋の行方のように。

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