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第17話 年上の部下の本音は……
「第三者……義くんがいるところでは、あくまでも俺はおまえの部下という立場だから少し距離をとった方がいいような気がしてさ」
剣がそんなふうに説明する。でも。
「でも、初めて義と三人で会ったときは、今みたいじゃなかった」
俺はいつぞやの日曜日に他校の学生に絡まれていたときのことを思い出して言った。
あのときも義がいたけれども、剣は決して余所余所しくなんてなかった。
剣は俺の言葉に少し困ったように笑う。
「……ああ、うん。そうだったね……」
剣の言うことは矛盾している。
それなのに、俺の頭を撫でる手はとても優しくて、俺はますます剣の内心が分からなくなってしまう。
もう今にも俺の目からは涙が零れ落ちそうで、必死にそれに耐える。
「泣くなよ」
剣が言う。
「泣いてないっ」
そう答えた瞬間、とうとう涙がポロッと頬へと伝った。
剣は頭を撫でていた手を頬へと移動させて来て、そっと俺の涙を拭いながら、ポツリと言葉を口にした。
「……俺、拗ねてたんだ」
「へ?」
拗ねてたって、どういうこと? っていうか、剣と拗ねるっていう言葉がイコールで結ばれないんだけど。
「いい大人が情けないけど、なんとなく面白くなかった」
「……?」
剣の話は肝心な部分が抜けていて、何が言いたいのか分からない。
涙目のまま剣のことをきょとんと見ていると、彼は観念したように溜息をついた。
「俺はおまえと二人きりの時間が結構気に入ってたんだ」
「剣?」
「なのに、義くんを連れて来て。……二人きりの時間を取り上げられたようで面白くなくて拗ねてた」
「…………え?」
ちょっと待って。剣が、そんなこと思ってた? 嘘。マジで?
思ってもいなかった展開に俺が戸惑っていると、剣は尚も言葉を続けた。
「ごめん。大人げなくて……」
そして、俺の頬を両手で包み込むと、赤い舌で目尻にたまった涙を舐めとる。
そのまま剣の唇は下へと降りて行き……俺の唇にキスをした。
ほんの微かに触れ合っただけの唇。
でも確かに触れた唇。
……俺のファースト・キス。
俺が呆然としていると、剣は額と額を合わせて来て、優しく微笑み、
「大きな目。零れ落ちそう」
少し照れくさそうにそんなことを言った。
それからゆっくりと顔を離すと、俺の方へと手を差し出して来る。
「ほら、もうおやつ食わないんなら、部屋へ行って勉強するぞ」
「…………うん」
まだ半ば呆然としたままの俺の様子に剣は「かわい……」と目を細めて呟き、手を握って来たかと思うと、ソファから引っ剥がされた。
俺たちは手を繋いだまま二階にある部屋へと続く階段を上っていく。
剣が纏う空気はどこまでも甘く優しい。
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