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第20話 今は……

 ガチャリという音とともに入って来たのは父さん。後ろにはレイナさんが控えている。 「信一、少し話が……ああ勉強中だったか、すまないな」 「……いえ。もう勉強の時間は終わりましたので。それよりもお早いお帰りですね。気が付かなくて申し訳ありません」  父さんの台詞に答えたのは剣の方だった。  俺の方はまだ先ほどされた行為が原因で心臓が痛いくらいドキドキしていて、真面に話せそうにない。  それに比べて剣はさっきまであんなにエロオーラ満開だったくせに今はもう澄まし顔で父さんと言葉を交わしている。  ……なんだかすごく悔しいっていうか切ないっていうか、複雑な気持ち。 「やあ、沢口くん、ご苦労だね。……信一、なんだか顔が赤いがどうかしたのか?」 「べ、別に」  まだ必要最小限の言葉しか発することができない俺を助けるように剣が言った。 「社長、信一様とお話がおありだそうですから、私はこれで失礼します」 「いや、この際だから沢口くんも聞いてくれ」 「はあ……」  父さんはいつになく緊張した面持ちで深呼吸をしたあと、レイナさんを傍に抱きよせる。 「今日、レイナさんに正式に結婚を申し込んでオーケイしてもらった。……信一、レイナさんがおまえの新しい母親になるんだが、許してくれるか?」 「……いいよ」  俺の口からあっさりと承諾の言葉が飛び出したことに父さんは少し驚いていたようだけど。  父さんがレイナさんを連れて部屋にやって来たときから、俺には大体の話の予想はついていた。  でも正直言って、さっきまで剣と交わしていた深いキスやボディタッチの感触が生々しく体にも心にも刻まれていて、父さんの結婚話など霞んでしまっていた。  以前までの俺なら予想はしていても、少しはショックなり寂しさなりを感じていただろうけれども、今は全くそんなものはない。  それどころか、父さんもレイナさんに恋をしているんだなーと共感を覚えるくらいだった。  父さんは俺に再婚の賛成をしてもらい、機嫌よくレイナさんと二人で部屋を出て行く。  その背中を見ながら、父さんは恋を成就させたんだな……なんて羨ましくなった。  俺がぼんやりと二人が出て行ったドアを見ていると、剣が声をかけてくる。 「大丈夫か? 信一」 「大丈夫って……何が?」 「ショックだろ? あんなふうにはっきり聞かされると。だっておまえ、すごくファザコン――」 「だからファザコンじゃないから!!」  俺はこの前同じように言われたときよりも強く否定の言葉を吐いた。  確かに剣を好きになるまでは、少しはファザコンだったかもとは思う。  もう寂しくないなんて強がっていながらもレイナさんばかり見つめる父さんに、寂しい思いもしていた。  でも今は剣だけ。  剣しか見えない。  剣の言動に心がかき乱され、剣に触れられて胸がパンクしちゃいそうにドキドキしてしまうんだ。

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