「だって」 「え？」 「だって、剣がいてくれるんだろ？　一番に俺のこと見てくれるんだろ？」 　俺がそっぽを向いて、そんなめちゃくちゃ恥ずかしい言葉を放った瞬間、剣の長い手が伸ばされて彼の腕の中に包まれた。 「うん。俺が信一の傍にいるから。一番に信一のこと見つめるから」 　甘い声で俺が何よりも望んでいる言葉を囁き、剣がちゅっと唇にキスをしてくる。 　……剣は嘘つきだと思う。 　けれども俺はその嘘に騙されていたかった。 　剣の一番は彼女のものだと知っていながらも、彼の少し冷たい柔らかな唇の感触と抱きしめて来る腕の強さに酔いしれていたかった。 　剣にとって俺は浮気相手なのか、それとも単に同情してくれてるだけなのか、分かんないけど。 　触れて来る手は優しくて、少なくとも嫌われてはいないことに安心する。 　キスが段々激しくなって行って、俺の体温がどんどん上昇していく。 　気づけば俺はベッドへ押し倒されていた。 「ちょっ……剣！？　何する？　下に父さんとレイナさんが……」 　ようやく解放された唇で俺が焦りながら言うと、剣は紅い舌で自分の唇をペロリと舐め、俺の体を衣服の上からまさぐり始める。 「大丈夫。……最後まではしないから」 　は？　さ、最後！？　け、剣のやつ、何言って……。 　俺がわたわたしているうちにも剣は慣れた手つきで俺の上着を乳首が露わになるくらいまでめくりあげてしまう。 　そして片方の乳首を指で摘まみ上げ、もう片方の乳首にはぱくんと唇で吸い付く。 「やっ……！」 　乳首を誰かに触れられた経験なんて勿論なくって。 　未知の快感が体中を駆け巡り、俺はベッドの上で体を捻った。でも……。 　確かに気持ちは良かったのだが、俺の目からは何故か涙が零れ落ちる。 　俺は嗚咽をこらえて、泣いていることを剣に知られないようにと枕に顔を埋める。 　俺が泣いてしまったのは、剣がすごくこの手の行為に慣れていたから。 　そりゃ剣は大人の男だし、国宝級と言っていいくらいのイケメンでもあるから女の人にもモテるだろう。 　現在進行形の彼女だっている。経験豊富なのは当たり前なんだけど……そのことが俺にとっては悲しくて、切なくて。ようはみっともない嫉妬。 「……信一？　って、え？　おまえ、泣いてる？」 　必死に泣いているのを隠していたのに、剣は目ざとく見つけてしまった。 「な、泣いてなんかないっ……」 　俺はごまかそうとしたが、涙声が出てしまう。 　剣はバッと素早い動作で俺から体を離した。 「ごめん……信一、怖かったか？　ほんとごめんな……俺、先走っちゃって……」 「こ、怖くなんかないっ。俺だってあれくらい経験あるから」 　ファーストキスもまだだった俺があんな経験あるはずがない。 　だから見え透いた嘘のはずだったのに、剣は途端にその目を鋭くし、同じように鋭い声で聞いて来る。 「誰と？」 「え？」 「誰としたの？　さっきみたいなこと。女？　……もしかして義くん？」 「……え？」 　なんで、そこで義が出て来るんだよ？　だいいち義が好きなのは剣だってーの。 「な、何言ってんだよ。そんなはずないだろ」 「本当に？」 「本当に」 「じゃ誰としたの？」 　剣はまだ怖い顔をしたままだ。 　冷たすぎる綺麗な顔が怖くて、俺はまた涙が滲んだ。 「だ、誰ともしてない……分かってるくせに。俺にそんな経験ないなんてこと」 　俺が本当のことを白状した瞬間、剣が再び俺の体を抱きしめて来た。