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第22話 切ない2
「ごめん……。うん、信一に経験がないことは頭では分かってる。キスも俺が初めてだったし。でもさ、万が一あったらって思ったら、感情が暴走した。……俺、自分でも驚いてる。余裕がなくて」
「剣……」
剣は俺の上半身をベッドから起こすと、目尻の涙にキスをしてくれ、乱れていた俺の服を直してくれた。
そして髪を撫でると今度はすごく優しいまなざしと声で、
「いろいろと本当にごめん。でも俺はおまえのこと大切にしたいんだ……それだけは分かって」
そんなことを言った。
つくづく罪作りな男だと思う。
けれども俺は剣が好きだ。
彼女がいるとしても、彼は俺のことも大切に思ってくれている。それだけは伝わって来る。
「……剣……」
剣のスーツの胸に縋りつき、目を閉じる。
剣がまた髪を優しく撫でてくれる。
この手の優しさを知っているのは何人いるんだろう?
剣は一見ストイックな感じがするけど、案外チャラいのかな……?
様々な思いがグルグルと渦を巻き、俺は考えることに疲れて段々眠くなって来た。
剣の胸に体を預けながら眠りへと落ちて行く。
俺が完全に現実世界から意識を手放す瞬間、剣が囁いた。
「信一、もう少しだけ待ってて……」
その言葉の意味は分からないまま俺は眠りについた。
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