24 / 53
第24話 愛する人と親友のキス
キス、してたのだ。剣と義が。
その濃厚なシーンに俺の中で何かが壊れる。
勢いよく開けたドアを再び勢いよく閉めて俺は階段を転がり落ちるようにして降りた。
背後から俺を呼び止める声が聞こえて来たような気もしたが、部屋のドアは重厚でほとんど外に音が漏れないので、幻聴だろう。
そのまま玄関まで走り、スニーカーのかかとを踏んだまま履き外へと逃げ出した。
やっぱりと思い知らされた気がした。
剣は誰とでもああいうことしちゃうんだと。
想像なんて怖くてできないと思っていた剣と義のラブシーン。でも案外しっくりお似合いで。
剣は文句なしの容姿端麗だし、義だって特別イケメンではないけど、決して醜男ではなく、恋愛経験が豊富な大人っぽい色気のようなものがある。
結局俺なんかより義の方がよっぽど剣とお似合いだ。
剣に甘い言葉を囁かれて、キスされて、触れられて……、彼女ほどではないけど、もしかしたら少しは俺も剣にとって特別なのかもしれないなんて思い上がりもいいところだった。
俺は街をめちゃくちゃに走り回った。一人になりたくて。
なのに、どこもかしこも人がいないところなんかなくて、走り疲れて辿り着いた公園も、お年寄りや子供、そしてベンチでは楽し気に笑うカップルがいた。
俺はカップルから一番遠いベンチに腰を降ろす。
頭の中ではさっきの剣と義のキスが何度も何度も再生され、俺を苦しめる。
今、彼らはあの続きをしているのだろうか? 俺の部屋の俺のベッドで。
「剣の奴、サイテー」
俺は口の中で呟く。
彼女がいるのに、あっちにもこっちにも(それも男)手を出して。もしかしたら他にも手を出してる女の人とかもいるのかもしれない。
そんなふうに考え、剣のことを憎もうとしてみるのだが、心の底では憎み切れない。
剣がくれた優しい言葉の一つ一つが思い出されて。あの言葉たちが全くの口からの出まかせとは思いたくなくて。
何万分の一、何百万分の一でも真実が込められていたと信じたくて。
ともだちにシェアしよう!