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第26話 心が痛い……
「ほら早く電話をかけなさい」
父さんにせっつかれ、俺は剣に電話を掛けた。
剣はワンコールが終わる前に電話に出た。
『社長ですか? 信一様は帰って来られましたか!?』
切羽詰まった剣の声。
父さんの電話で掛けてるので相手が俺だとは気づいていないようだ。
「……もしもし……俺」
『信一!?』
「うん……」
『帰って来たのか……無事で良かった……』
剣は心底安心したような声でそんなふうに言ってくれた。
けど、次の瞬間、父さんのよりも迫力がある雷が落ちた。
『おまえ今までどこへ行ってたんだ!? 門限は九時なんだぞ!! 分かってんのか!?』
「ご、ごめんなさい」
あまりの剣幕に思わず謝りの言葉が口から出た。
剣は深く溜息をつくと、トーンダウンした声で言う。
『……無事で良かったよ。誘拐でもされてるんじゃないかと気が気じゃなかった』
「ごめんなさい」
同じ言葉を繰り返す俺。
本当は俺にも言いたいことはいろいろあったのだが、すぐ傍には腕組みをしてこちらを睨んでいる父さんがいるので、めったなことは言えない。
それは電話の向こうにいる剣も同じように感じていたみたいだった。
『……傍に社長、いるんだろ? 話は明日しよう。ちょうど休日だしな』
その後、電話を父さんへ返すと、ひとしきり剣に謝ってから通話を終え、俺はまた散々父さんに叱られた。
最も、俺の頭の中は剣のことでいっぱいだったから、父さんの説教は右から左へと流れて行ったけれども。
いったい剣は明日、どんな話をするというのか。
義とのキスをどう説明するのか。
俺より義を選ぶとか言われちゃうのかな……いや、大体剣には彼女がいるんだから。
俺も義も遊び? だとしたら剣はかなり最低な奴だ。
それでも剣に愛想を尽かす気にならないのは俺にかけてくれる言葉や、見つめてくれる瞳、触れて来る手があまりにも優しくて……嘘だとは思えなかったから。……思いたくなかったから。
俺よりもずっと年上で、大人の男の剣。経験もきっと豊富で、そんな剣に俺は完全に騙されてしまっているのかな。
そんなふうに考えると俺の心はキリキリと痛んだ。
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