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第27話 真実
ほとんど眠れなくて迎えた休日の朝。
食欲がなかった俺は朝食には手を付けずに歯を磨き顔を洗った。
寝不足の所為で目の下に薄っすらと隈ができている顔をタオルで拭っているとインターホンが鳴った。
「……はい」
『……おはようございます、信一様』
剣は秘書バージョンで挨拶をして来る。
「今、開けるから、待ってて」
鍵を開け、大きく扉を開くと、剣がいつものようにスーツ姿で立っている。
「……社長は?」
「父さんならレイナさんと出かけたよ」
「そう」
急に剣の声音がぶっきらぼうなものに変わる。どうやら素の剣に戻ったようだ。
「家政婦さんは?」
剣が続けて聞いて来る。
「今日は休みをとってる」
「じゃ、遠慮なく二人きりで話ができるな」
なんだか剣はすごく不機嫌そうだった。綺麗な顔の眉間に微かに皺が寄っている。
どうして、剣の方が不機嫌になるのか俺には分からなかった。
まだ昨日の帰りが遅かったことを怒ってるのだろうか。
なんとなくモヤる気持ちを抱いたまま、俺は二階の自分の部屋へと上がる。
剣も後ろからついて来て、二人自室へと落ち着いた。
しばらく俺と剣の間に沈黙が降りる。
すっごく気まずかった。
剣にはいろいろ問い詰めたいことがあるのに、どう口火を切っていいか分からない。
すると、剣が切れ長の目を鋭く光らせながら口を開いた。
「信一はどう思ってるかしらないけど、昨日のキスは義君の方から一方的にしてきたものだから」
「え?」
「昨日、おまえが席を外してるときに、『付き合ってください』って告られて、いきなりキスされた。勿論すぐに突き飛ばしたし、告白も丁寧に断った……誰かさんが逃げ出してしまっているうちにね」
「…………」
そっか、あの時のキスは義からの一方的なもので、告白も断ったんだ。
自分でも性格が悪いと思うけど、安堵していた。
そんな俺の気持ちとは反比例するように剣の不機嫌さは酷くなって行ってるようだ。
剣が怖くて俺は中々自分の気持ちを吐露できない。
すると剣は鋭い目をますます鋭くさせた。
「信一、おまえ、義君の気持ち知ってたんだって? なのに彼を勉強会に参加させたり、部屋に二人きりにしたりして、俺との仲を取り持つつもりだったのか?」
剣の斜め上の発言に俺は軽いパニックに陥る。
「そ、そんなはずないだろ! だって」
「だって?」
俺は剣のこと好きなんだから。
けど、そんなふうに告白する勇気は俺にはなくって、その代わりに口からついて出たのは――。
「だって、剣には彼女がいるじゃないか」
ずっとずっと心に棘のように刺さっている事実だった。
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