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第28話 真実2
なのに。
「は?」
剣は目を瞬かせて白を切った。
「……俺、彼女なんかいないけど」
ここに来てようやく俺に怒りの気持ちが湧いて来る。
「嘘つくなよ。俺、見たんだから。仲良くツーショットで歩いている所」
「仲良く……ツーショット……?」
剣は首を傾げて考えていたが、やがてポンと手を打った。
「もしかしたら、コトミのこと言ってるのか?」
コトミだかサシミだか知らないけど、あの時の仲睦まじげな様子を思い出して、今度は俺が超不機嫌になる。
すると、剣はサラサラの髪をかき上げながら深い溜息をついた。
「コトミは元カノだよ。今は付き合ってる事実はない。だいいちコトミはもうすぐ別の男と結婚する予定だし」
元カノ? 別の男と結婚? ほんとに?
「で、でも、だってあんなに仲良さげに歩いていたし、剣、すっごくうれしそうに彼女を見てたし」
「それは信一の……先入観だったんじゃないか?」
剣が困ったように笑う。
その笑みが少し陰っているように見えるのは、それこそ俺の『先入観』なのだろうか?
「ほんとに?」
俺はおずおずと訊ねた。
すると剣は何処か思い詰めたような表情で俺を見つめて来て。
「俺は好きな子にだけは嘘はつかない」
え?
「好きな子って……?」
まさか、もしかして、ひょっとして、……俺? まさか。
ポカンとした顔で剣のことを見ていると、剣は今度は呆れたように深々と溜息をついた。
「どうして分からないんだよ……おまえ以外に誰がいるんだよ……」
「だって、だって、剣、そんなこと全然言ってくれなかったじゃないか」
「それは……うん、はっきり言わなかったのはごめん。でも、抑えきれない思いが態度として出ちゃってたと思うんだけど、気づかなかった?」
「き、気づかないよっ……そ、そんなっ」
恋愛経験がほとんどない俺にははっきりした言葉で言ってくれないことには分からない。
匂わせや雰囲気で察せられるほど俺は敏感じゃないし、何より剣には彼女がいるって思いこんでいたし。
「俺はこんなに信一のことが好きなのに、おまえは義君と俺とをくっつけようとしてくるし……結構傷ついたんだぞ」
「だから、そんなことしてないってさっきから言ってるだろっ。お、俺は剣のことが――」
そこまで言った途端、剣の顔がパァッと輝く。
「俺のことが?」
「え? その、あの……好き……?」
「何で疑問形なんだよ」
剣がクスッと嬉しそうに笑う。
俺は生まれて初めて誰かに告白をしたことで、顔が真っ赤になってるのが自分でも分かった。
剣は俺のおでこと自分のおでこをくっつけて来て、甘ったるい声で囁いて来る。
「信一、おまえってまるで底なし沼みたい」
「底、なし、沼?」
「ハマったら最後、終わりがないってこと」
「…………」
どうして、そんな恥ずかしい台詞をサラって言ってのけるのだろう。
はっきり言って剣がイケメンじゃなかったら許されない台詞だ。
俺がこれ以上はないくらい真っ赤になってそんなことを思ってると、剣が俺に抱きついて来て、そのまま俺は後ろのベッドへ押し倒されてしまう。
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