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第36話 デート当日

 初めてのデート当日。  自宅まで車で迎えに来てくれた剣を前に俺はポカーンと口を開けて立っていた。  俺は今まで剣の服装と言えばスーツ姿しか知らない。  以前に街で元カノと歩いているのを見かけたときもスーツ姿だったし。  なのに、今、目の前にいる剣はパーカーにジーンズというラフな格好だった。  その姿に俺は思わず目を奪われてしまう。  勿論スーツ姿の剣もとっても魅力的だ……なんて言うかストイックで、いかにも切れる男って感じで。  でもラフな格好の剣は随分若く見え、大学生と言っても通るって感じ。  急に年の差が縮まったみたいで、なんか新鮮でドキドキする。 「どうかした? 信一」  剣が車の助手席のドアを開けてくれながら聞いて来る。 「……今日はスーツ姿じゃないんだなって思って」 「……ああ……」  助手席に腰かけた俺にシートベルトをしてくれながら剣は照れたように笑う。 「遊園地に行くのにスーツはないだろ。……それに今日はおまえの部下としてじゃなくって、その、恋人として出かけるわけだからな。変か? この格好。何着ていくか結構悩んだんだけど」 「ぜ、全然、変じゃない……けど。なんか緊張する」  ラフな格好の剣にもだけど、初めて彼のブルーグレイの車に乗せてもらって。  すると剣が俺の手を取り、チュッと甲にキスをした。 「……俺たち、なんか順番間違ってるって感じだな」 「え?」 「だってさ、普通はデートを重ねてから、キスやセックスするものなのに、俺たちは先に体を繋げちゃってさ」  剣は車を走らせながらそんなことを言ってのける。 「け、剣っ、そういうこと言うなってば」  恋愛経験に乏しい俺は恥ずかしくてたまらないんだから。  それなのに剣は尚も続ける。 「でもさ、家庭教師や未来の秘書としておまえのすぐ傍にいたら、手を出さずになんていられなくて」 「剣っ……」 「すぐ真っ赤になるところ、ほんと可愛いんだよな、おまえって信一」 「…………」  俺だってもう高校生の男だ。  剣以外の誰かに可愛いなんて言われたら、腹立つだけだけど、剣に言われたらなんだか胸がトキメクっていうか、まるで自分がドラマかなにかの主人公になったみたいにくすぐったい。  そんなことを思いながら、俺は剣の横顔をちらりと盗み見た。  横顔も本当に綺麗だなー剣って。  額から鼻筋、口元、顎へのラインも完璧で。  切れ長の綺麗な目は今はまっすぐ前を見ていて、唇は楽し気に綻んでいる。  ここまで来ると芸術的って言うか、もういつまでも見ていられるな。  なんて俺が見惚れていると、剣が不意にこちらを見て言った。 「信一、安全運転で行くけど、酔いそうになったら言えよ?」 「あ、うん」 「あと後部座席に飲み物とかお菓子とか買っておいてあるから。適当につまんで。ただし昼飯に響かないくらいにな」 「ん」  俺は早速体を乗り出して後部座席にある袋を漁った。  あ、ポテチのコンソメ味の小袋がある。これくらいなら昼にも響かないだろう。  俺はオレンジジュースとポテトチップスを手に取ると、剣に聞いた。 「剣もなにかいる?」 「あー……俺はブラックコーヒー」 「はい」 「サンキュ」  プルトップを開けたコーヒーを差し出すと、剣は片手で器用に受け取る。 「…………なんか照れる」  俺がポツリと呟くと、剣が不思議そうに首を傾げる。 「え?」 「……だって、すごくデートって感じで」  剣が今度はプッと吹き出した。 「だって、デートじゃん」 「そりゃそうだけどさ……」 「もしかして信一って、こういうデートみたいなものも初めて?」 「そ、そんなわけ…………あるけど」  俺は昔から女の子が苦手だったし、男に恋愛感情なんて持ったのは勿論剣が初めてだし……。  心の中で言い訳めいたものをしていると、 「うれしい」  信号待ちでとまった車の中、剣は俺の頬にキスをしてくれた。 

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