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第41話 恋人の部屋
「……一、信一……」
俺を呼ぶ低く甘い声とともに唇にふわりと柔らかなものを押し付けられるのを感じた。
それが剣の唇だと分かった瞬間、眠気は一気に吹っ飛ぶ。目の前には端整な顔立をした俺の愛する人。
「可愛い顔して眠ってるとこ起こして悪いんだけど、着いたよ、俺のマンション」
「ん……ここが剣のマンション?」
「そ。入り口はあっちだから。……お手をどうぞ」
イケメンにしか許されない言葉と所作で剣が俺の手を取った。
剣の部屋はこれぞ大人の男の部屋という感じだった。
黒を基本とした家具で揃えられ、無駄なものはいっさいない。
「ちらかってて悪いけど、ソファにでも座って」
「……それって嫌味?」
「え?」
だって剣の部屋が散らかっていると言うなら、俺の部屋ななんてゴミ屋敷だ。
ほとんど生活感の感じられない部屋を見渡しながら、今度来るときは大きなウサギのぬいぐるみでも持って来てやろうとか思った。
そんな俺の考えなど知らずに、剣はキッチンで飲み物を入れてくれている。
「おまたせ、信一」
剣がトレイに乗せて持ってきたのは、多分俺のためのオレンジジュースと自分のためのブラックコーヒー。そしてチョコレートケーキが二つ。
「え? ケーキ? 買ってあったの?」
俺が言うと剣はクスクス笑って。
「ここへ戻って来る時にケーキ屋さんへ寄ったの気づかなかった? おまえ、よく寝てたもんな」
「起こしてくれたら良かったのにー。ケーキ屋さん、俺も見てみたかった」
子供のような我儘に剣は苦笑とともに答える。
「あんまりぐっすり眠ってたからさ。少しでも長く寝かせといてやりたかったんだよ」
……確かに昨夜は今日がデートだって興奮してほとんど眠れなかったし、朝からジェットコースターのはしごもしたし、寝不足は寝不足だったけど。
それよりも疲れを感じたのはあの元カノの所為だ。あまりにも重い存在とその存在に恐怖する剣に俺の精神は不安で疲弊して……と、だめだだめだ!
せっかくの剣との二人の時間にあんな女性のことを考えたらだめ!!
俺がふるふると小さく首を横に振ると、剣が凛とした声で言った。
「大丈夫だよ、信一」
「え?」
「何があっても、おまえだけは守る。……たとえこの命捧げても」
不穏なことを言う剣に俺は怒った。
「何言ってるんだよ!! そんなのあの女の思うつぼだろ!! 俺はもう剣がいなきゃ生きていけないんだからな!」
そして剣を引き寄せ俺の方からキスをした。
こういうことに関してはいつも俺の方が受け身だから剣は少し驚きながら、それでもキスに応えてくれる。
糸を引くキスのあと剣は眩しいほどの笑顔とともに言い直してくれた。
「信一、俺はいつまでもおまえと一緒にいるよ。絶対に。だからおまえから俺を振ったりすんなよ」
「そんなことするわけな――」
冗談だとわかってても嫌で否定しようとする言葉を今度は剣の唇に塞がれた。
そのままソファへと押し倒される。
「愛しるよ……信一……」
「ん……。俺も……」
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