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第7話 結ばれる夜
父親との再会は、文雄のお陰でいいものになった。
もし一人で会っていたら、お互いに笑顔にはなれていなかったかもしれない。文雄が緩衝材になってくれたから、三人で時々会う約束までできたのだ。
政吉の家を出た頃は夕方だったが、もうすっかり暗くなり、夜の高速を飛ばした。
「中瀬さん、ありがとう」
「どういたしましてっ」
「中瀬さんがいてくれたお陰で、仲良くなれたと思う」
「なら良かった」
「うん」
「また会いに行ってあげような、俺らで」
「はい、よろしくお願いします」
二人で笑い合った。
「明日の『たっちゃん』のバイトは大丈夫?」
「明日いつも通り夜から入ってるよ」
「……そっか、じゃ、明日の夜までは一緒にいられるんだ?」
「うん……っ、中瀬さんの仕事は?」
「ああ、今日と明日は休むって言ってるから」
「そうなんだ」
「おう、ここんとこ連勤だったから、ゆっくりしていいぞって親父も」
「じゃ安心だね」
「……今晩、どうする?」
文雄の声色が低くなった。到流の胸に熱いような痒いような感覚が走った。
「え……」
「俺思ったこと何でも言うたちだから言うけど」
「うん……」
「到流のこと、めちゃめちゃ抱きしめたいんだけど」
「……ぇ……」
「今日改めてお前のこと可愛いって思っちゃったから、いい? 我慢できない」
「う、うん」
「抱きしめるだけじゃ終わらないと思うけど、いい?」
「……っう、ん」
頷くと急に顔が熱くなって、自分の股間が膨らんでいくのが分かった。パンツとズボンに行き先を阻まれて少し痛くなった。
何考えてんの……まだそういう行為をしているわけじゃないのに……何期待して反応してんの……。それにそういう行為をしたことがないくせに……。
そこで会話が途切れて、しばらくすると文雄はハンドルを切って高速を降りた。
「どこ、行くの?」
「実はここ降りたらすぐラブホがあるんだ」
「っ…………僕の部屋に来るのかなって」
「俺もさ、超久々でさラブホ。十年前くらいに女の子と乗りで入ったんだけどね」
「そ、そうなんだ」
「結局、カラオケしてゲームしてお菓子食って添い寝して終わったけど」
「そう、なんだ」
「到流は? 入ったことある?」
「ううん、ない……っていうか、こういう、ことも初めてで……」
「マジで? 女の子とも?」
「うん……女の子とは友達で終わるし……男性ともまだ……」
「そっか、良かった。俺めちゃめちゃ幸せかも。でも、俺も男とは初めてなんだ実は」
「そ、なん、だ」
「おう、女の子とはあるっちゃあるけど、だから、初めて同士でいろいろがんばろ」
「……何を?」
「いろいろだよっ、いろいろ~」
到流は思わず吹き出してしまった。すると文雄も笑ってくれた。
「到流とはいろいろ思い出作りたい」
「うん僕も」
「到流の部屋もいいけど、ラブホでくつろぐのもいいかなって」
「そうだね。お風呂が広いとか泡が出るとかネットで見たことある」
「おお、いいね。一緒に背中流す?」
「う、うん」
「……それに、デカい声出してもラブホなら、平気だろ?」
「なにそれ」
「え? そういうこと」
「やだもう」
到流は文雄の腕を叩いた。
「到流のエッチな声聞きたい、って、なんちゃって」
「もう」
到流は今度は文雄の太腿を叩いた。
「あ、そんなとこ叩かれたら反応するじゃん、ってもう反応してるけど」
「ははは、実は僕も」
「やっぱり? やっぱそこは男同士だから分かり合えるよな」
「そだね」
「先っぽ、微妙に濡れてるかも」
「そこまで言わなくていいよぉ」
笑っているうちに車でラブホの門を潜った。駐車場が一部屋ごとにその真下に併設されていて、一部屋ずつ専属の階段が付いていた。
「ここなら男同士でも入れるだろ? 従業員と顔会わせないし、清算は機械だし」
「普通は男同士だと断られるんでしょ?」
「そういうとこ多いね」
他の部屋にも車が何台か停まっていた。悪いことをしているわけでもないのに変な緊張を抱えてそろっと二人で階段を上った。
ドアのところまで来ると誰とも顔を合わせることはないけれど、追っ手から逃れたような安堵感で部屋の中に入った。
初めて見る光景に到流は驚き、備品や戸棚を見て回った。すると急に脇腹にたくましい腕が回された。
「ぁ……ぇ」
耳元には文雄の熱い息がかかった。
「二人きり」
「う、うん」
「前から思ってたけど到流の腰マジで細いな」
「そ、そう?」
「うん、片手でも一周するかも。なんか甘い匂いがする」
「整髪料、かな。中瀬さんもたくましいね、前から思ってたけど」
「ありがと」
と言ったと同時にベッドまで半ば引っ張られ座らされた。
「ひぁっ……」
肩を引き寄せられ、文雄が到流の瞳を覗き込んでくる。
「可愛いすぎるんですけど」
「……っ」
文雄の顔がゆっくり近づいて来る。到流もゆっくり目を閉じた。
砂浜でしたときよりも唇が穏やかに重なった。お菓子のグミみたいな柔らかい弾力で到流の上唇を食み、下唇を挟まれるともう屹立が一瞬で張りつめていた。
文雄の温かくて滑らかな舌が到流の唇を優しく濡らしていく。文雄の唇と舌が同時に動いて到流の唇をゆっくりと愛撫する。
文雄の唇はいったん離れ、到流の頬に口づけし耳元に移動した。耳たぶを甘噛みされて熱くて柔らかいものが動き回った。
「んはぁ……だめ」
到流の口が半分開いて息が漏れる。
かと思うと、白くてきめの細かい首筋に熱い唾液が塗られていく。
「あ……んふ……」
「可愛い……俺、もう無理」
と聞こえたかと思うと、到流の首筋に熱くて甘くて痒い痛みが走った。
「やぁはぁっ」
文雄は吸血鬼のように到流の首筋に嚙みついた。
シュルシュル、チュパチュパという音とともに小さな軟体動物が牙の間で暴れ、つねられたような感覚が走った。
文雄は顔を上げると到流の首筋を淫猥な目つきで見つめた。
「ついちゃったキスマーク。これでお前はもう俺のものだな」
「えぇ……」
「歯型もちょっと、えへっ」
「だめ、だよ、そんな」
「いいよ、俺のものなんだから」
「だめっ、そんなことしなくても、もう僕は中瀬さんのものだよ」
「俺の印もつけたいの」
「だってバイトとかもあるんっ、んんぅっ、ううん」
今度はさっきよりも激しく唇に蓋をされ、口の中で文雄の舌が踊った。
ベッドに倒され、服を脱がされた。
「あ、シャワーしなきゃ」
「もうちょっと後でいいよそんなの、我慢できねえって」
「だって」
到流の言葉も聞こえていないといった顔つきで、文雄は到流の上半身を眺めた。
「きれいで可愛い、特にこの乳首」
「やだ……」
咄嗟に隠そうとした腕を脇に払われシーツに押さえつけられた。
「はっ……」
紅潮した乳首が愛撫を待っているかのようにぷっくりと立ち上がっていた。
「やらしい……乳首はしっかりサイズあんじゃん」
「恥ずかしいよ」
次の瞬間、文雄の口は到流の乳首を頬張っていた。
「あっ、待っ、はぅ、んん」
いつも隠している快楽のスイッチで文雄の唇と舌が動くたびに快感が全身を走り抜けた。小さな突起物になんでこれだけの威力があるのかと思うくらいに思考や動きを止めて、喘ぎ声を出させる。
「んああ、はあ……や……だめっ、あんあ」
右が終わると左、左が終わると右、と意地悪でもされているように文雄の執拗な愛撫が続いた。
へそと脇腹にも舌が這い、脇を通って、首筋のキスマークを癒して、また到流の口に戻って来た。
「感じてる到流可愛いよ」
お互いの唇がつながっても、喘いでいた分、到流の唾液が溢れ顎を伝って流れた。
文雄の手が到流のズボンの上から股間を優しく弄った。
「はあぁっ、だめ、シャワーさせて」
「なんで、到流はきれいだよ、俺は何もかも味わいたい」
「だめ、お願い、僕が嫌なの、中瀬さんにそんな」
「分かった、じゃ、一斉に脱ごうか?」
と言って文雄はベッドから降りてまず上着を脱ぎ捨てた。隆々とした筋肉が現れ、男っぽさの匂いが漂った。
「ほら」
と促され到流もベッドから降りて向き合って立った。
文雄は自分のベルトに手をかけていた。もうそこにははち切れそうな盛り上がりが生地を押し広げていた。
二人で同時にズボンを下ろすと、二人のパンツの一部分に同じような染みが付いていた。文雄の染みは真ん中より遠い位置にあり、男根の長さを物語っていた。
「じゃいくよ、せーのっ」
文雄の掛け声で一斉にパンツを下ろした。到流の屹立は可愛く跳ね上がったが、文雄の屹立はズンという音が鳴ったかのように、太くて長い竿をしならせて天井を向いた。
到流の目が文雄の下半身に釘付けになった。
「……ぉ、おっきぃ……」
「そうか?」
文雄の大きな傘の先の鈴口から透明な雫が糸を引いてつーっと垂れた。
「俺は可愛い到流の方が好きだ」
見上げるともう抱きしめられていた。到流の胸近くに文雄の肉棒があたっていて、ヌルヌルと滑った。
手をつないでバスルームに向かった。シャワーにあたりながらキスをして、ボディソープで洗い合い、いろんなところを触って感じさせ合った。
シャワーを止めて、入口を開けてバスタオルに手を伸ばしたとき、到流は軽く足を滑らせて四つん這いになってしまった。すぐに立ち上がったが、振り返ると文雄の顔が強張っていた。
「今のやらしい……」
「違うよ、ちょっと滑っただけ。お尻向けちゃってなんかごめんね。さあ体拭こう」
到流はそう言ってバスタオルを二人分手にしようとしたとき、文雄がそれを奪って荒々しく元の場所に戻した。
「え……」
と思った瞬間、手を引かれバスルームから濡れたまま連れ出された。
「体、拭かないと、え……」
二人とも全身ぐっしょりと濡れたままで、文雄は構わずといった感じで到流をベッドに引き倒した。
「えっ、中瀬さんっ、ちょっ……」
覆いかぶさった文雄は到流の両手を枕元に押さえつけた。
「あんな姿見せられて優しくできるほど俺は賢くない」
「待って、あれは、だから」
「今だから言うけど、お前マジで俺のどストライクなんだよ、顔も体も中身も。一目見た瞬間からやりたくてたまんなかった」
「あ、ありがとう、嬉しいよ、でも、ちょっと落ち着い、て」
「無理」
「中瀬さん……」
「大好きだし愛してるしめちゃめちゃタイプだから、落ち着くのは絶対に無理」
「僕も中瀬さんのこと大好きだし愛してる」
手と手を握り合わせて力を入れた。
「ごめん、やっぱ手加減できそうにないわ」
「あ、待……んんん、ううう、ふんふう」
激しいキスが始まり到流の力も抜けていった。片手を握り締め合い、文雄のもう片手は到流の肩に回り、文雄は下半身で到流の股を割って体を密着させてきた。
文雄が顔の角度を変えるたびに、熱い鼻息とともに髪や顔からまだ温かい雫が到流の顔に落ちて来る。体を密着させるとどんどんお互いを濡らしていった。
さっきよりも明らかに強く激しい愛撫で攻められた。舌が動くスピードも押し付ける強さも文雄の昂りを表わしていた。耳から首へ、首から胸へと狂ったように文雄の頭が移動していく。
「んんああっ、だめっ、いやんっ、はわあ、んはん」
「到流っ、俺のもんだからなっ、うおお、到流! 絶対に誰にも渡さないからな」
「ぼ、僕は、ああんは、なっ、中瀬さんのもの、だからっ!」
「可愛い、ああ、可愛い!」
「……感じるぅ、ん、あ、すごく感じるっ、中瀬さんっ」
文雄の愛撫はだんだんと体の下の方へと動く。到流の下半身にくると、動きが止まった。
文雄は到流のペニスの先を指でいじり始めた。
「こんなに濡れてる、ほら、糸引いてる」
「やだ……っ」
「ここも正直で可愛い」
そう言うと文雄は躊躇することなくそれを咥え込んだ。
「あっんん、あっ、はあ」
文雄の力強い口のピストンは到流の昂りを呼び起こさせた。
「はあっ、だめ、そんなに、ああ、いきそうに、なっちゃう」
「まだまだ」
今度は到流の体をひっくり返し背中に舌を這わせて、お尻の頬を何度も啄んだ。
「このケツマジでそそる」
「ああっ、はんっ」
文雄の動きが止まったことが気になり、到流はそっと振り返った。すると文雄は到流のお尻の頬を広げて真ん中を凝視していた。
「到流のここ、きれい。ピンク色だし」
「いやんっ、あぁん」
顔を戻した瞬間、到流の蕾に熱くてヌルヌルした感触が充満した。文雄の舌が到流のアナルを入念に舐め始めた。
「あ! そんな! や!」
チュルチュルという音が続き、感じたことのない快感が巻き起こった。
「んはっあっ、んだめぇっ、な、ああっ」
到流の口から垂れた唾液が枕を濡らし、体の形で濡れているシーツから冷たさの刺激が伝わってくる。
しばらく続いた後、文雄が急に到流の横に寝て、自分の屹立を持って揺らした。
「俺のもしゃぶって」
到流の喉が鳴り、唾を飲みこんだ。
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