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第4話
21:00 何時もより早い時間、家に戻ることが出来て不思議な感覚だ。
服を着替えてベッドに横になる。
あの人…キス上手かったな…。
大人ってみんなあんなのしてるのかな…俺の知ってるキスと違かった…なんか頭がジンジンする様な強烈なやつ。オレが今まで女の子達としてきたのは何だったんだろう…。
どことなく…誰かに雰囲気が似ていて初めて会った気がしない…変な人だった。
寝転がりながら何気なくファイルを手に取り眺める。
依冬くん…湊くんを殺しちゃったのか…。
あの必死な顔…頭から離れない…
オレは育ちが悪いせいか、そこまで他人を好きになる事は出来ない。
今まで付き合った彼女たちも刹那的な関係が多く、もっと…と求められると大抵冷めて逃げ出した。
誰にも取られたくないなんて気持ちすら理解できない。
だってどんなに愛したって人が孤独なのは変わらないから…
いつもより早いのに精神的に疲れたのかオレはぼんやりとそんな事を考えながら眠ってしまった。
14:00 アラームの音で目覚める。
今日もシャワーを浴びて歯磨きする。
黒く染めた髪は既にやや色落ちした様だ…早くないか?
オレはいつもの黒いダメージジーンズに大きめのTシャツを着た。
髪の毛のせいでやや湊くん感が残るが、着る物でオレを取り戻す。
さて、今日はどんなステージにしようかな。
1日踊らなかっただけなのに、すごく久しぶりに感じて早く店に行きたくなった。
18:00 店に向かう。
秋めいてきたこの頃、日が沈むのも早くなってきた。
もう秋か…
オレは三叉路のいつもの店にやってきた。
「シロ、初めてのお休み何に使ったの?彼女?」
支配人が興味津々で聞いてくる。
オレは適当に答えて階段を降り控室へと向かった。
さぁ化粧しよう…
黒髪のせいか…アイラインを引いてシャドウを乗せると自分が湊くんに見える。
…嫌だな
オレはメイクを落として今度はダークブラウンのシャドウを乗せた。
うん、シロだ。
今日はどの衣装にするかな…黒い革パンと黒い大きめのシャツ。下着はギリギリ見えるか見えないかの紐パンか…。最後はこの紐パンとブーツだけになるなんて滑稽に見えるけど、ショーの間はそれがエロく見える事をオレは知ってる。
今日も頑張ろう…
19:00 時間ぴったりに店内へ移動した。
「シロくん。」
店に出るとニコニコ笑顔の向井さんがオレに声をかけてきた。
ステージ前の席に座って優雅にカクテルを飲んでいる。
「なんでいるの?もう会いたくないのに…」
オレは憎まれ口を叩きながら笑って近づいた。
ふふふと含み笑いをしてこちらを見る。
下から上まで舐める様に見てくる…
「向井さんてさ、いやらしいよね…。」
目の前を通って椅子に座ろうとするオレの腰を掴んで自分の股の間に引き寄せる。一連の動作が手慣れてるね。
「そう思うのは俺にいやらしい事されたいって、願望なんじゃないの?」
耳元でそう言うとまたにっこり笑う。
「ふぅん…」
興味なさげに返してオレは向井さんの股を脱出してDJの元に曲を届けに行く。
何となく…あの人といるとオレ、ゲイになるかも…そんな恐怖を感じて敢えて避けた。
「今日はどうする?」
「んー、今日はその中のランダムで良いや。」
あの人の真ん前で脱ぐの嫌だな…
嫌がっても時は過ぎて行き、ショーの時間が来てしまう。向井さんは控え室に移動するオレに投げキッスする。
まったく…調子が狂うよ。
カーテンの袖に控えて深呼吸する。
緊張する時はお客をじゃがいもだと思え!なんて言葉があるけど、オレは向井さんだけ、じゃがいもに見える様にするよ。
大音量の音楽が流れ始めてオレはカーテンを出た。
ランダムで再生されたこの曲はポールを使う様に編集したやつだ。
オレはポールまで歩いて行くと、音楽に合わせていやらしくしゃがみ腰を突きあげた。そして立ち上がるとポールを掴んで両足を上に高く持ち上げて絡めて止まる。そのまま状態を起こして体を仰け反らせて回る。
今日は…パっと見ゲイが多そうだからそっち仕様のダンスにする。
足で反動をつけてスピンさせながらポールに上った時と同じように両足を上に上げてさらに上に掴まって上がる。これって腹筋、背筋、めっちゃ使うんだよ?結構高くまで上がったからオレは両手を離して回った。そのあとポールに逆さに体を添わせて体を伸ばして太ももと腕にぽーすを絡めて降りていく…最後は体を起こして下の方でスピンさせてゆっくりとポールを降りた。
ステージに移動する。典型的なスタイルで行こう。後ろを向いて上の服の裾を掴んでまくり上げる。背中くらいまで脱いだら正面を向いて全部脱ぐ。脱いだ体を仰け反らせながら手を体に這わせるんだ。もちろん目つきは挑発的にね。
あぁ…向井さん。あんたがチップ咥えたの見えたよ。
見えたけど最後に取りに行ってやるよ。
あんたは最後だ。
オレは四つ這いになり片手で革パンに手をかけて膝まで摺下げる。裾のチャックを開けて下までズボンを脱ぐと客に足を差し出してズボンを脱がせてもらう。
さぁパン1姿になってステージも終盤だ。
チップを咥えてステージに寝転がる客から口移しでチップをいただく。手で渡すお客にはパンツに挟んでもらうか口で受け取りに行く。
そして最後の最後にあんたの口からチップを貰いに行こうかな。
ゆっくりとステージに横たわってる向井さんの方へと向かっていく。彼の頭の両脇に膝をついて顔を覗き込む。腰から胸まで手を置いて体をなでてやる。なんとまぁ、良い体をしてらっしゃる…がっちりとした筋肉がついていて確認するように揉んでしまった…我に返って彼の肩に両手を着き、腰を引いて顔を近づける。向井さんの吐息がかかる。しばらく見つめた後…ねぇ、と声をかけて目を合わせる。
「勃起した?」
そう聞くと彼の口元はニヤリと笑った。
オレはチップを咥えて持っていく。
これでお終いだ。
立ち上がってポーズをとってフィニッシュだ。
ショーが終わり、メイクを落として楽な格好に着替えたオレは、店の外で風に当たりながらタバコを吸っていた。
「シロくん。すごく良かったよ。」
帰りがけの向井さんがそう声をかけてきた。
オレはどーも、と言って手をあげて見送った。
あの人…絶対ゲイだ。
2:30
仕事終わりに智と遊んでいたらすっかり遅くなってしまった。
店を後にして家路に着く。
帰りにコンビニに寄ろうと少し遠回りする。
コンビニの灯りがオレを照らした頃、突然腕を掴まれた。
振り向きざまに顔がありそうな高さに肘を入れる。
「…!!」
感触に違和感を感じて腕を掴む相手の手を自分の反対の手で払った。
相手の背が高くオレの肘鉄は胸元に当たった程度でノーダメージの様だった。
「何だよ?」
睨んで顔を見上げる。
!!
依冬くん…なんでここにいんの?
オレはビビった気持ちを察せられない様に冷静にオラついて対応する。
「あんた、この前の…」
思ってたのと違う反応に困惑気味の彼を睨みながら言った。
「いきなり触るのやめて、マジで嫌だ!」
吐き捨ててコンビニに入る。
あぁ!マジでビビった!
怖かった!殺されるかと思った!!
とりあえず食べ物と飲み物を買って恐る恐るコンビニから出る。
そこにはシュンと背中を丸めてガードレールにもたれる彼の姿があった。
オレに気付くと犬みたいに寄ってくる。
オレは彼を無視して歩く。
「さっきはすみません、あの、あの…こんな夜にどうしたのかと思って…」
このまま家まで付いて来そうで怖い。オレは追いかけてくる依冬くんを制する為、振り返り立ち止まった。オレはお前の湊くんじゃないって事ハッキリさせとこうぜ。
「オレ、この先のストリップバーで働いてんだよ。で、今仕事帰りなの。名前はシロだよ。相手して欲しかったらうちの店に来てチップを弾んで?」
付いて来んな、じゃあね。と言って振り切った。
しばらく歩いて後ろを振り返ると彼の姿はもうない。
…あぁ怖
お前こそ何であんな所ほっつき歩いてんの…?
彼女の家でも近いのかな…?
家に着くと電話が鳴った。
相手は非通知、どうせ依冬くんの父親だろう…
毎回タイミングが良過ぎて監視されてる不安を感じる。
「シロくん私だよ、お仕事お疲れ様。ところで、この前ホテルで会った時、本当に驚いたよ…湊に瓜二つだった…。あの子が生き返ったのかと思ったよ。」
ずいぶん高揚した声色に違和感を感じながらオレは自宅周辺に依冬くんがいた事を伝えた。
「彼女の家が近くにでもあるの?」
電話口の相手は黙って考えてる様子だった。沈黙が続いてらちが開かないので話題を変えた。
「ところで、何でいつもタイミングよく電話がかかって来るのか分からない。どこかでこの部屋の事監視してたりしないよね?」
オレの質問に笑い声を出しながら否定した。
多分嘘だな…監視されてる。
何のために?
「次の予定はまた連絡して伝えるよ。お仕事に影響のない様に早めに伝えるから、おやすみ」
この人ずいぶん砕けた感じになったな…
電話を切ってその場でしばらく考える。
依頼内容と違う目的がある気がしてならない…
ザワザワと胸騒ぎがする。
なんだ?この違和感は…
依冬くん、店に来るかな…
来たら少し話してみても良いかもしれない…
この違和感を解消する何かが見つかるかもしれない。
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