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第5話

18:00 三叉路の店の前、依冬くんがいた。 オレに気づくと尻尾を上げて喜んでいるみたい。 「あ、シロさん。」 「お店19:00からだよ?」 「会えるかと思って…」 「チップくれなきゃ喋らないよ。」 オレは彼を素通りし店内に入った。支配人に挨拶をして階段を降りる。 あぁ、本当に来たんだ… 19:00 オレは店内に移動して依冬くんを探した。 見つけた。ステージの前の席に依冬くんが座っている。 「君さ…未成年だよね?本当はいけないんだよ、こういうの。バレるとお店が潰れちゃうからね?」 オレはそう言いながら彼の肩をポンポン叩いた。 すごい!強そうな良い体してるね… 「あの、シロさん。お話できて嬉しいです。」 照れながら笑う依冬くんは年下の可愛い男の子だ。 人を殺すほど凶暴に見えないけど… 「君名前は?」 「結城依冬です。」 「なんでオレのことつけ回すの?」 「…昔好きだった人によく似ていて…」 オレは依冬くんの真向かいに座って彼の顔を覗いてみた。顔を赤くして伏し目がちに話す彼は本当に聞いていた奴なんだろうか…オレにはそんな風には見えない。 ショーが始まってオレが大勢の前で服を脱ぎ腰を振って、好きな人を汚される気はしないだろうか…この純朴な青年を傷つけるのは忍びない… 「オレさ今から脱ぐけど、大丈夫?」 え? と顔を上げてこちらを見る。 「オレ、ストリッパーだからショーが始まったら脱ぐんだよ。君の好きな人に似てるかもしれないけど、これはオレの仕事なの。好きな人が脱いで腰振るのみたくないと思うけど?」 依冬くんはしばらく考えるみたい。黙って下を向いてる。彼は不器用で愚直なだけで、無害な気がしてきた。 「シロさん、俺シロさんにもっと近づきたい…」 ふぅん… 「そ、良かった。じゃあオレの飲み物頼んでも良い?しばらくここに居てやるよ。」 オレはそういうとウェイターにビールを頼んだ。 依冬くんは自分の事や仕事の事をペラペラと話してくれた。目元が印象的な端正な顔立ちでこちらを見るキラキラした目に惹きつけられる。特に彼の胸筋背筋腹斜筋にはオレは90点を挙げてもいいくらい完璧な筋肉美を感じてしまった。 オレは仕事柄筋肉を必要としてるけど、見せられる筋肉じゃなくてインナーマッスルばかり鍛えてる。そうじゃないとエロく見えないから。だからこんなムキムキなの…羨ましいし、かっこいいなと思ってしまうんだ。 オレと歳がそんなに離れていないのに… 擦れたオレとは大違いの綺麗で見事な実。 「ねぇ、オレに似てるっていう…君の好きな人のことを聞かせて?」 オレは頬杖をつきながら依冬くんに尋ねた。 「名前は…湊、俺の幼なじみでした。」 知ってる。 「高校2年の時、亡くなったんです…」 知ってる。 「俺の…父が…」 ん…? 「湊を犯して殺しました…」 …へぇ、それはミステリーだね… オレはじっと依冬くんの目を見る。これが演技なら凄い役者だな…。 「何で殺したの?」 俯く彼の頬を触って顔を上げさせる。 「知らないうちに父は湊を性的に虐待していたんです…。小さい頃から、何回も何回も…オレがそれに気付いたのが高校2年の時で…」 彼はオレの手に頬を添えてうっとりとこちらを見る。 オレは湊じゃないのに… 「関係を拒んだ湊の首をナイフで切って殺したんです…」 そうなの…と言って立ち上がると、オレは彼の傍に行き太ももをゆっくり撫でて足の間に入った。鍛えられた胸板を手でなぞり首に手を回して顔を近づける。軽く口にキスして顔を覗く。 「依冬…オレの事どうしたいの?」 彼はニヤリと笑いオレの背筋を凍らせる。 あぁ…自己防衛で記憶を改ざんするなんてよくある事だよな… これって所謂ペルソナかな…? 「湊を独り占めしたい…」 オレの体を抱きしめて苦しいくらいに締め付ける。 …オレ見ちゃったんだよ。君の体に触れて煽るように話した時、君の目の奥はギラギラしていてさっきまでの依冬くんじゃなかった。湊くんの首を締めてる所思い出して興奮したの?表向きは好青年だけど、君の中には他人を殺しかねない狂気があるみたいだね…。 「シロ、そろそろ」 支配人の声にオレは我に帰って依冬くんから離れた。君もちゃんと仮面を被ったね? じゃあどうなるか分からないけど踊ってみるよ… なんだか君は哀れでかわいそうだ… 「シロ今日はどうする?」 DJに声をかけられて少し考える。 「…ん、じゃあ1番激しいの行こうかな…」 オレはそう言って控室に向かった。 カーテンの向こうには彼がいる。 一瞬だが完全に湊とオレを混同した狂気の青年…。 「女と別れたのかな…」 オレはポツリとつぶやいた。 本来の達成目的はそこだ。女と別れさせればお役御免なんだ。寄り道しないで詮索しないでそこを達成させよう…感情を添わすとこっちまで狂いそうな狂気は破滅しか招かないのをオレは知ってる。 …かわいそうなやつ。 大音量の音楽が流れオレはカーテンからステージへ向かった。 ステージには常連たちがみんな仰向けに寝転がってチップを咥えて待つ。 なんでかって? 曲を聞けば分かるんだろうね、今のところこれが1番激しいダンスの時のだってさ。 オレはポールに助走を付けて飛びつくと体を仰け反らせて回りポールを揺らしながら上の方に乱暴に登っていく。結構高くまで登ると体を反らしてポールを掴む。両足を一気に落としてバク転みたいに体を一回転させるんだ。これって結構体幹が必要で下手するとお股に直撃するって…結構危険な技なんだよ。見せ場が決まり観客が沸く。 オレもお股が無事で一安心だ。 そしていつもの様に常連のチップをいやらしく四つん這いになりながら口で受け取り、服を脱ぐ。まるでファックされてるみたいに腰を動かしてズボンを下げる。 依冬くんの真ん前で脱いであげるよ…君こういうの大好きなんだろうから… 依冬くんの前に頭がくる様に仰向けに寝転がり足を上げてズボンを脱ぐ。ほら、チップちょうだいよ…オレは体を仰け反らせて足を開いて踏ん張りながら腰をいやらしく動かす。喘ぐ様に口を開いてイキそうだろ? 「シローーーッ‼︎」 極まった客の歓声が聞こえるけど、オレは君が口にチップを咥えるのがスローモーションで見えるよ。仰向けになっていけない子だね…。オレは体を起こして彼に近づき胸板に顔を乗せてゆっくり腰を引きながら顔に近づけた。首筋を舐めて口にキスする様に唇を這わせてチップをもらう。その時、君はオレの唇を舐めたね…本当いけない子だ。 ショーは大盛況に終わり興奮した客が1万円でネックレスを作ってくれた。 こんなに金要らないくらいオレは今金持ちなのに… オレは17歳で家を出て東京に来た。 地元では友達も彼女もいたけど…全て無価値だった。 オレはシングル親の家庭で母親に育てられた。歳の離れた兄貴とオレのすぐ下に弟がいて、オレは間に挟まれた次男だった。 兄貴が言うにはオレと弟は兄貴とは別の男の子どもらしい。 歳が離れてる事もあって、子供ながらに納得した覚えがある。 兄貴はとにかく母親に頼りにされていて留守の間もあいつがボスだった。 母親はオレがあんな事されてるのも知らずに、夜の仕事で見つけた男に依存して、乗り換えては家に帰ってこない生活を繰り返してた。 オレは弟を守るのに必死だった… 何からって、兄貴の趣味にさ… 初めはオレが小4の時だった。寝てるオレの布団に兄貴が入ってきた。オレの布団をはいでパジャマのズボンを下げオレのモノを舐めて大きくしてそのままイカせた。その当時兄貴は20歳…立派に社会人してる頃だ。 どんどんエスカレートしていって、一年も経たないうちにオレはあいつの性処理用のダッチワイフになった。弟は薄々気づいていたけど、関係ないとオレから目を背けてあいつがオレを抱いてる時はコンビニに出かけたりしていた…。 母親に1度相談したけど、兄貴は母親の前では完璧ないい子だ。信じるわけ無かった…。 絶望なんて感じなかった。やっぱりなと腑に落ちた。それくらい兄貴は完璧だったから。 オレはすっかり兄貴に仕込まれて開発済みなんだよ…だから支配人もオレをスカウトしたのかな…?向井さんも… ゲイもビアンも同じ匂いを感じるって言うでしょ…?認めたくなくてもあんなに幼いうちから仕込まれてたら、そういうの分かる人には分かってしまうのかな… 依冬くん…君にオレの兄貴を感じたよ… でもあいつは君とは逆でさ、オレが拒絶しだしたら自分が消える事を選んだんだ。 第一発見者は弟で、首を吊ってる兄貴を担いで救急車を待ったらしい…もう死んでんのにさ。 弟にとっても母親にとっても立派で頼りがいのある兄貴は死んだ。 オレが黙って兄貴の言う"愛"に従っていれば死ななかったのかな…。 たまに夢に見る… 幼いオレを好き勝手して弄んでるあいつの後ろ姿を見てるんだ。幼いオレは身に降りかかる快感を素直に感じてよがってる…。 兄貴の背中にすがって泣きつく… 「もうやめて…」って絞り出す声で泣きつく。 そんな夢… 多分死ぬまで見るんだろうな。 依冬くん…君も夢に見る? 湊くんの最後を何度も見るのかな…

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