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第10話

「シロ、お友達いるのにほったらかしで良いの?」 智が小さい声で聞いてきた。顔はまだうつろで悲しげだ。 「うん…」 オレは今賭けてるから 「智は大丈夫?」 「うん…」 優しいうそだ… 可哀想な智…傷ついたんだね。 「シロ〜?そろそろだよ」 支配人の声がかかる。 オレはカーテンの前に立ち深呼吸をする。 どうかまだ居てくれ… スカなジャズが流れる。オレの好きな曲。 カーテンから出ると常連たちは歓声を上げる。 さすが知ってるよね、オレこの曲大好きなんだ。 コンテンポラリーの様に体を動かしていつもの激しいのとは違う美しい踊り。 手の先までしなる様に動いてバレエの様に足の全てを意識して動かす。全ての動きに意味があって全ての体の筋肉を使って踊る。 こっちの方が好きだ… オレは踊りながらステージの周りを見回す。 あ、いない… ショックのあまり振りを忘れそうになる。 これからクライマックスなのに… 依冬…どこだよ…お前に賭けたのに…!! 馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿!! 「シロ…」 声の方を見る…いた… 常連客の群れの向こうでグラスを片手に立ってこちらを見ている。 オレは依冬を手招きで呼んでステージに上げた。あいつの肩を掴んで座らせるとそのまま仰向けに寝かせて足元に跨った。膝立ちして自分のズボンの両脇のジップをゆっくりと太ももまで下げる。ズボンがハラリとめくれて肌が露出する。依冬の体を這う様に下腹部あたりから自分の体を添わせる。体をしならせ最後までジップを下ろしてズボンを脱ぐ。 その気になるなよ… 依冬はオレを凝視している。 そう、そのまま見てるだけにしろ… オレは依冬の腰の上で浮かせた自分の腰をゆっくり動かす。まるでセックスしてるみたいに。体を仰け反らせて喘ぐ振りをする。 そしてブカブカのシャツのボタンを上から外していく。あいつの手を掴んで上体を起こしオレの肩からシャツを落とさせてそのまま腰を掴ませる。手が大きくて砕かれそうで怖かった…そして最終的にオレはこいつの上で激しく腰を揺らして体を仰け反らせた。 本当こいつ体大きいな…跨いだ足が浮きそうだ… 最後はいつも適当で、今回は依冬と静かにキスして終わった。 レパートリーの中でもオレの中では1番エロいと思ってるやつ。 のんけとやるとパニックを起こして面白いんだ。 ダンサーが恋人と本当にセックスしてるみたいで見る人はとても興奮するらしい。 思った通り客は沸いた。 オレは依冬を起こすとステージから下ろしてあげた。歓声を上げる客達。すぐ戻るからと伝えて急いでカーテンの裏に行き適当な服を着る。そのままステージを走って依冬に向かっていく。そんなオレを見て慌てて手を広げた依冬に飛びつく。 「あはは!本当に帰ったかと思った…!良かった!いてくれて良かった…!」 あいつはオレの様子に戸惑っていたが、足が浮くくらい強く抱きしめてきた。 「シロのステージ見るまで帰らないよ…」 何でか涙が出てきて体が震えて来るから、そのままあいつの服に全部擦り付けた。 抱きしめてたお前は気付いただろ… オレが泣いていたの。 「シロは何でダンサーにならなかったの?」 カウンターで飲む客に言われた。 「一応ダンサーだよ」 依冬を送ってぼっちになったオレはカウンターで客と談笑していた。 「あんなに踊れるのは芸大とか出てる人だけかと思ってたよ…アートで感動しちゃった!」 すごく褒めてもらって嬉しくなった。 「ありがとう…」 オレもそういうのやりたかったよ… 客もまばらになってそろそろ閉店時間だ。 オレは裏の控室に戻ってメイクを落とそうとした。 「…んっ、んん…いたっ、向井さん…怖いよ…」 ドアに手をかけようと思った時中から声が聞こえた。智…中に向井さんも居るみたいだ。 「痛くないでしょ?きもちいいって言えよ…」 聞いたこともない様な向井さんの押し殺す声と強い口調に心が萎縮する。 負けんな、最後まで頑張れオレ… ドアを開けて中に入る。 事の最中の向井さんはオレを見て口端をあげて笑う。オレはそれを見て目をそらす。 そしてメイクをいつもの様にゆっくり落として、顔を洗って着替えて荷物を持って部屋を出る。 扉を閉めて階段を上がり店の外に出る。 深呼吸して耳を塞ぐ。 智の声が頭にこだまする。 痛いと泣く様な…かすれた声がずっと聞こえていた。オレを動揺させようと激しく苛めて鳴かせて…あんた何がしたいんだよ… 頭がおかしい… 智、ごめん、ごめん、ごめん… オレは上手く仕返しした。 あいつが悔しがってあんな強行をとるくらいに。 飄々と人の気持ちを踏みにじって思いのままに操れると思っているのかよ… 誰にだって反逆される可能性はあるんだよ。 ざまあみろ オレにことごとくシカトされた気分はどうだった? お前になんて興味はないんだよ ざまあみろ 14:00 非通知の電話の着信音で起こされる。 「シロくん…電話にやっと出てくれたんだね…嬉しいよ。話がしたいんだ。」 この父親…こいつのせいで依冬はおかしくなったんじゃないかと思うくらいしつこくて不気味だ。湊、湊…って… オレは何も答えずに電話を切った。 湊くんて。どんな子だったんだろう… 知った所で彼はもう亡くなってる訳だし、オレには関係無い事だけど、少なくとも2人の男がおかしくなるほどの何かを持っていたって事なのか… 単純に興味があった。 依冬がそれほど愛した彼を知りたくなった。 …嫉妬? まさか、自分に限ってそんな訳はない。 オレはやっぱり考えすぎると良くない。 早くシャワーに入って着替えよう… 18:00 いつもの様に店に行く。 今日は智とシフトが同じ筈なのにまだ来ていないみたいだ。昨日の事なんて言えばいいか… 18:45 智がまだ来ない。 支配人の所へ行って話をするも連絡はないみたい。今までこんな事なかったのに…智に何かあったんじゃないかと不安になる。 19:00 開店の時間になっても智は来なかった。 ショーの間も接客してる時も頭から智の事が離れない。胸騒ぎがする… ただ、忘れていただけなら良いんだ。何かあの人に酷いことをされてるのでは無いか…そんな不安が頭をよぎって離れない。 オレは控室に戻り智に電話する。 着信音の後に留守電に回される…こんな事を何回も繰り返して立ち尽くす。 心配だ…智の家…どこだっけ? オレは仕事が終わると東中野の智の住むマンションにやって来た。 階段を上がり奥から2番目。 ピンポン チャイムを鳴らすけど誰も出てこない…人の気配はするのに…智どうしたんだよ。 「智?オレ、シロだよ。飲み物買って来たよ。具合悪いの?顔だけ見せて…」 ドア越しに呼びかけるも返答は無かった。 「良くなったら連絡して…飲み物置いていくね」 そう言ってドアノブに飲み物が入ったレジ袋を掛けるとその場を後にした。 智…あの時助けてあげなくてごめん… ごめん。 トボトボとまだ暗い夜道を家に帰る。 家の近くのコンビニに寄って、適当な飲み物を買う。袋をぶら下げてまた夜道を歩く。 頭の中は智の事でいっぱいだった… 申し訳ない気持ちで押しつぶされそうだ。 オレのアパート前に不似合いな高級車が止まっている。なんとなく誰だかわかった。 車のそばを通ると窓が開いて思った通りの人が声をかけてきた。 依冬の父親だ。 「シロくん…ちょっと話せないかい?」 「仕事帰りで疲れてるから…」 そう言って素通りしてオレはアパートに入る。 …こんな時間まで付き纏ってすごいしつこいな。 そんな事を思いながら自室の前のドアに立ち鍵を開ける。手に下げた袋がドアに当たってガンと小さな音を立てた。 扉を開くと後ろから何かに押されてつんのめって膝から前に倒れた。 後ろを振り返ると大きな体の依冬の父親が立っている。 玄関がガチャリと閉まり、あの人が後ろ手で鍵をかけるのが見えた。これ、やばい展開じゃないか… オレは慌てて部屋に逃げ込もうとする。しかし依冬の父親はオレの腰をがっちり掴んで自分に引き寄せた。足が浮く… 「あんた、何してるのか分かってんのかよ!」 暴れて喚くオレを気にもとめずオレを後ろから抱きしめる。どうせ湊と混同してんだろ… 「やめろ!バカ!変態! 離せ!出てけ!」 オレは喚きながらオレの腰を捕まえるこいつの手を退かそうとする。 フッと口元に温かい温度を感じたと思ったらグッと片手でオレの口を押さえつけてきて、そのまま自分の体に押しつけて来る。そしてもう片方の手でオレのズボンに手を伸ばしてくるとズボンのチャックを開け始めた。 「んっ! んん!」 ズボンの中に簡単に侵入してきたその手はオレのモノを見つけると強く握って扱き始める。 オレはその手を退かそうと両手で爪を立てて応戦する。 嫌だ、こいつにはやられたくない… 効果があったのかオレを自分の方に向かせ直すと頬を引っ叩いてきた。だからオレはこいつの顎目掛けて頭突きしてやった。 鈍い音がしてオレから手を離した。 その隙に玄関を出る。 はだけた服を直しながら走る。 ああいうのを血迷ってるって言うんだろう… なんなんだよ…もう…! 公園のベンチに座って携帯を見る。 4:30…あたりはだんだんと明るくなってきて朝の空気を醸し出している。 家に帰れない… オレは意を決して交番に行った。 変な男に部屋まで入られたと伝えてついて来てもらう。強盗事件の恐れもある為、警察は拳銃を装備していた。 そのまま撃ち殺してくれよ… 部屋に着くと鍵は開いたままになっていて、中に入るとさっき暴れた玄関周辺のものが倒れたままになっている。 「何か盗まれたものはないですか?」 部屋のありとあらゆるドアを開けて人が居ないか確認するが大丈夫そうだ、取られるものも特にないだろう… 「大丈夫です」 オレはそう言って警察官にお礼を言うと頭を下げた。 部屋の中にいるのに落ち着かない… もしかしたら隠れていて出てくるかもしれない… そんな恐怖を感じたが何事もなく時間が過ぎた。 …依冬の父親…やばいやつだ。 騒がない様に口を抑える一通りの動作がこなれていて恐怖を感じる。 湊もそうやって犯してきたのかよ… オレはシャワーを浴びて着替えると濡れた髪のままベッドに入った。 もう早く寝よう… 「ん…んん、あっ…、ん、はぁ…んんっ…」 下半身に快感を感じて目覚める。 なんで… カーテンから漏れる朝日に照らされ依冬の父親がオレのモノを熱心に咥えているのが見える。 「ん…嫌っ!やだぁ!なんで、なんでっ!」 気付くとオレの両手は縛られてベッドに固定されている。 「や、やだ!離して! なんなんだよ!オレは湊じゃないのにっ!やめろっ!」 騒ぐ俺の声を嬉しそうに聞いてオレの頬を手の甲で撫でる。 「シロくん、かわいいよ…さっきの頭突きすごく痛かったよ?いけない子はお仕置きしないと…」 そう言うとオレの乳首をこねる様に舐めまわしながら自分の指をオレの中に入れてきた。 「んっ!や、やぁ…だ!離して…や、んっ…やだぁ…んっ、んんっ…ん」 オレの感じやすい箇所を探す様に指を回していく。前立腺の近くに指が来た時、体が跳ねた。 「んんぁっ!はぁ…ん、や、やらぁ…やだ…」 しつこくそこを刺激して指を増やしていく。 オレの感じて勃起したモノを口に入れながら扱く。もう、気持ち良くて…イキそう。 「はっはっ…だめ、やめて…いやだ、お前なんか嫌いだ…お前が死ねばよかったのに…」 オレの言葉に愛撫する手が止まる。 「湊…なんて言った?」 オレの顔を覗き込んで聞いてくる。 目は見開いて奥の黒さがより深く見える。 「お前が…お前が死ねばよかったのに…!」 オレはありったけの呪いの念を込めた目で低く唸る様に言った。 依冬の父親の目が歪んで潤む。 大粒の涙がオレの顔に落ちてくる。 うなだれる様にオレの胸元に顔を下げると小さく震えている。 「すまない…すまない…湊、お父さんを許して…湊、お前が…お前がいないと…」 オレはとどめの様に言ってやった。 「湊は死んだよ。もう2度と会えない。」 依冬の父親は嗚咽を漏らして泣き出した。おっさんがオレの腹で泣き崩れるなんて…シュールだ。 すっかり戦意喪失した依冬の父親はオレの手枷を外した。オレはすぐ服を着ると距離を取る様に離れた。 項垂れる依冬の父親にオレは静かに聞く。 「どうやって入ったの?」 「合鍵…」 「無理やり抱いてもオレは湊じゃない」 「…そうだな」 素直な返答に少し驚いて考える。 今なら話すかもしれない…。 オレは同じ口調で様子を伺いながら聞いた。 「湊はあんたの何?」 「息子」 …息子にこんな事してたの…最悪だ。 「……向井さんは…あんたの何?」 「息子」 …イカれてる。これは血なのか…そういう遺伝子でも継承してんのか?ここの家に女児が生まれなかった事が救いだ…。 「もう帰って」 オレが吐き捨てる様に言うと立ち上がり玄関に向かう。靴を履いてこちらを見てきたから 「湊は死んだよ。もう会えない!」 と言ってやった。 こいつには特別なカウンセリングが必要だ… イカれてる。 オレは舐められた体が気持ち悪くてシャワーを浴びて着替える。 もう今日は寝られそうにない。 また入ってくるかもしれないから…

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